Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未来視の未来

6

   

   

   

―未来を変える―

 それは、カノンにとって途方もないことだった。
 
 
今まで、どんな未来も外れたことはない。

 動こうとしなかった自分もいるが、自分に直接関係のない未来を、どうでもいいと思っていたことも事実だ。

 それを今更変えようとするのは、色々なバランスを崩しそうで、怖かった。

 未来を変えるには、その恐怖と戦わなければならなかった。


 一寸先の未来さえ全く分からず、ただ今を流れるままに生きているクローブには、その辛さは分からない。

 クローブだけでない。

 ほとんど全ての人がカノンの辛さを分からない。


羨望・好奇・妬み……カノンは、今まで様々な目で見られてきた。

 人間だと思われなかった。

 その美貌は簡単に人を惹きつけたが、同時に人を遠ざけた。

 さらに、人とは違う能力を持ち親からも見捨てられたカノンは、簡単に孤独になれた。

 だが、そうはならなかった。

 なぜならそれは、コールがいたから。

 コールが何を企んでいたとしても、カノンを救ったのは、カノンに手を差し伸べたのは、間違いなくコールだった。

 コールだけだった。


 

クローブ

王を死なせたくない?

 クローブの言葉に、カノンは頷いた。

カノン

お前は王が死んでもいいのか?

クローブ

私は王に忠誠を誓いお仕えする者
王に死なれては困ります

カノン

なら、護れ

 カノンは言い放った。

 それ以外に言うことはないと、無言で示す。


その威圧に、クローブは小さく肩を竦めた。

クローブ

俺はカノン様の犬じゃねぇ……

 そう思ったが、葉茶を口に含み、言葉と一緒に飲み込んだ。

 
 本音を言えば、護りたいのは王ではない。

カノン

出来れば未来も変えたいが……正直、どう動けばいいか分からん

クローブ

どんな未来を視たのですか?

カノン

……お前には教えられない

 城に仕える者に、城が陥落するとは言えない。

 カノンは、妙なところで気を使っていた。


扉から森リスが1匹顔を覗かせていた。

 それに気付いたカノンは、一瞬、ほんの少しだけ、表情を和らげた。

 カノンをよく知らない人にはわからない僅かな変化を、クローブは見逃さなかった。

 森リスには心を開き、人間に対しては心を閉ざすカノンに、クローブは少しだけ寂しくなったが、表情には出さなかった。

 
 クローブは暫く無言だったが、決意が固まるといつもの爽やかな笑みをカノンに向けた。

クローブ

……承知しました
王からの命令が第一に優先されますが、次にカノン様のお言葉に従いましょう

カノン

……助かる

クローブ

ただし


 クローブが、口の端を持ち上げた。

 何かを企んでいる顔。

 見たことのないその表情に、カノンは訝しんだ。

クローブ

お互いが休日のときに、城下の町でデートしてください
一緒にワインでも飲みましょう




   




   




   

 深い緑が溢れる視界。

 木漏れ日に照らされる道なき道。


城へと帰りながら、クローブはひとりごちた。

クローブ

カノン様が味方についてくれるなら……
でも、カノン様はコール王しか見ていない……

 頭が重いのを感じながら、クローブは空を見上げた。

 青は見えない。

 怖いほどに、深い緑が溢れている……




   

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