綺麗な花畑だ。

色とりどりの花がいっぱいに敷き詰められている。


風も穏やかで気持ちがいい。
花で一杯なのに歩いてみても足がくすぐったくない。

笑い声が聞こえた気がした。


木の陰から私を嘲笑うような声。

ここは私の夢のはずなのに、何故嘲笑う人が存在するのか。

突然家に上がり込んできたみたいで、気持ちが悪い。

ここには誰もいない。


何故か、それがだんだん歪に思えてきた。

たった独りで花を眺めていても、何も楽しくないのに

どうして、それが楽しいと思えてしまうんだろう。

花は確かに綺麗で見ていて楽しいけど
たった一人で見ても、何も共有できない。





ゆっくり立ち上がって辺りを見渡す。

人どころか、蝶や虫といった存在すら見えない。



文字通り、たった独りだ。


途端に息苦しくなってしまう。

たった独りの空間で花しか存在しない世界。


ただ眺めていれば幸せだったかもしれない。

けれど、知ってしまった。
気づいてしまった。





ここでは、誰にも会えないということに。

こんなの、悪夢と何も変わらないじゃない

NE-1023

深雪様?

深雪

うっ……うぅっ………

やっとわかった。

悪夢を見なくする薬なんて初めからなかったんだ。



私達が飲んでいた薬は、ただ悪夢の上に映像を上書きしただけ。
それでは、結局悪夢と何も変わらない。


その場しのぎ以外の何物でもなかった。

深雪

こんなの……ひどいよ…………

薬を飲めば悪夢を見なくなる。

そんなわけがなかったんだ。
どこまで行っても、私達は悪夢から逃げることはできない。


ただ、悪夢が仮面をかぶるだけ。
それっぽく、楽しい夢っぽく見せてくれるだけなんだ。


何も解決にはならないんだ。

深雪

貴女たちは……知ってたの?

NE-1023

深雪様?

深雪

薬なんかじゃ、どうにもならないってことよ……!!

NE-1023

まさか、気づい――――

NE-1023

…………

NE-1023

…………はい

耳元で誰かが嘲笑う声が聞こえた気がした。



そうか、やっぱりそうなんだ。

何も変わらないんだ。



きっと、さっき薬を求めてた人はそれが分からなかった。
もしくは、知ってても悪夢から逃げたくて薬に必死に縋ってたんだ。




でも、結局はぬるま湯だった。
悪夢に心を破壊されるか、薬に依存して全部破壊されるか

最初から、それしか選択肢なんて存在しなかった。

何から何まで、悪夢ばかりだ。

寝ても起きても、悪夢しかない。

こんなの、ただの地獄だ。

深雪

……もういいや

深雪

……ねぇ、メイドさん

深雪

ここでは、どうやったら死ぬことができるの?

NE-1023

――――

深雪

人を襲わないといけないなら、隣の部屋の人でも殴ってくるよ。他に何かあるなら教えてよ

深雪

もう、限界だから

もう、何も見たくなかった。



どうせ普通に寝て悪夢を見ても、薬を飲んで夢を見ても、どっちも悪夢だと知った以上同じだ。


結局同じ悪夢ならば、いっそ眠りたくない。

いっそ、死んでしまいたい

そう思ってしまっても、仕方ないのではないか

NE-1023

――――――――

そして、メイドさんはいつもより長い沈黙の後に

NE-1023

それだけは、お教えできません

初めて、私の言葉を拒絶した。

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