綺麗な花畑だ。
色とりどりの花がいっぱいに敷き詰められている。
風も穏やかで気持ちがいい。
花で一杯なのに歩いてみても足がくすぐったくない。
綺麗な花畑だ。
色とりどりの花がいっぱいに敷き詰められている。
風も穏やかで気持ちがいい。
花で一杯なのに歩いてみても足がくすぐったくない。
笑い声が聞こえた気がした。
木の陰から私を嘲笑うような声。
ここは私の夢のはずなのに、何故嘲笑う人が存在するのか。
突然家に上がり込んできたみたいで、気持ちが悪い。
ここには誰もいない。
何故か、それがだんだん歪に思えてきた。
たった独りで花を眺めていても、何も楽しくないのに
どうして、それが楽しいと思えてしまうんだろう。
花は確かに綺麗で見ていて楽しいけど
たった一人で見ても、何も共有できない。
ゆっくり立ち上がって辺りを見渡す。
人どころか、蝶や虫といった存在すら見えない。
文字通り、たった独りだ。
途端に息苦しくなってしまう。
たった独りの空間で花しか存在しない世界。
ただ眺めていれば幸せだったかもしれない。
けれど、知ってしまった。
気づいてしまった。
ここでは、誰にも会えないということに。
こんなの、悪夢と何も変わらないじゃない
深雪様?
うっ……うぅっ………
やっとわかった。
悪夢を見なくする薬なんて初めからなかったんだ。
私達が飲んでいた薬は、ただ悪夢の上に映像を上書きしただけ。
それでは、結局悪夢と何も変わらない。
その場しのぎ以外の何物でもなかった。
こんなの……ひどいよ…………
薬を飲めば悪夢を見なくなる。
そんなわけがなかったんだ。
どこまで行っても、私達は悪夢から逃げることはできない。
ただ、悪夢が仮面をかぶるだけ。
それっぽく、楽しい夢っぽく見せてくれるだけなんだ。
何も解決にはならないんだ。
貴女たちは……知ってたの?
深雪様?
薬なんかじゃ、どうにもならないってことよ……!!
まさか、気づい――――
…………
…………はい
耳元で誰かが嘲笑う声が聞こえた気がした。
そうか、やっぱりそうなんだ。
何も変わらないんだ。
きっと、さっき薬を求めてた人はそれが分からなかった。
もしくは、知ってても悪夢から逃げたくて薬に必死に縋ってたんだ。
でも、結局はぬるま湯だった。
悪夢に心を破壊されるか、薬に依存して全部破壊されるか
最初から、それしか選択肢なんて存在しなかった。
何から何まで、悪夢ばかりだ。
寝ても起きても、悪夢しかない。
こんなの、ただの地獄だ。
……もういいや
……ねぇ、メイドさん
ここでは、どうやったら死ぬことができるの?
――――
人を襲わないといけないなら、隣の部屋の人でも殴ってくるよ。他に何かあるなら教えてよ
もう、限界だから
もう、何も見たくなかった。
どうせ普通に寝て悪夢を見ても、薬を飲んで夢を見ても、どっちも悪夢だと知った以上同じだ。
結局同じ悪夢ならば、いっそ眠りたくない。
いっそ、死んでしまいたい
そう思ってしまっても、仕方ないのではないか
――――――――
そして、メイドさんはいつもより長い沈黙の後に
それだけは、お教えできません
初めて、私の言葉を拒絶した。