深雪

はあっ……はあっ…………!

NE-1023

お帰りなさいませ、深雪様

深雪

ひっ!

部屋に戻ればメイドがいるのは分かりきっているのに、どうしてこんなに驚いているんだろう。


メイドが都合よくメンテナンスか何かで部屋にいなければいい。
そう思ってたからに決まっている。



脳裏でさっきの光景が蘇る。

薬欲しさに襲い掛かってくる男性。
胸を貫き、血だまりの中で佇むメイド。

部屋の患者が死んでも、何事もなかったかのように佇むメイド。



どこまでも機械的で作業然としている、不気味な姿がフラッシュバックする。

深雪

うあっ、あっ あっ

NE-1023

深雪様?

世界がぐるぐる回っていく。

気持ちのいい目覚めなんてどこかに吹き飛んでしまった。


目の前にいるメイドも、配置が恐ろしく似ているこの部屋も、なにもかもが怖い。
誰も死んでいないのに、鉄の匂いが鼻を満たそうとしていく。

呼吸が

だんだん

早くなって――――

NE-1023

深雪様――――

耳を思い切り覆った。

痛いくらいに目をつぶる。



もう何も見たくなかった。

私は、ここに悪夢を見なくするために来たはずなのに、どうして夢より生々しい悪夢を見なければいけないの?

べっとりと付いた血のように、さっきの光景がこびりついて離れない。

これなら覚めたら終わりと分かってるだけ、悪夢の方がマシだった…………!!

NE-1023

…………

NE-1023

深雪様、大丈夫ですか?

深雪

触らないでよッ!!

NE-1023

…………

差し伸べられた手を、思い切り跳ねのけてしまった。

一瞬見えたメイドの顔が驚きで一杯だった。
その驚き方は、あまりにも人間じみてて…………

それが、私の心を更にかき混ぜていく。

深雪

せんせ……せんせぇ…………っ

深雪

怖いよ……たすけて、せんせぇ…………っ

先生はどこにいるのだろう。
いつになったら会えるのだろう。


また前のように寝る私の横にいて、優しく頭を撫でてほしい。
大丈夫だよって微笑んでほしい。



もう、こん世界嫌だよ……っ

NE-1023

……深雪様、貴女は今壊れようとしている

NE-1023

現実に絶望して何も見たくないならそれでも構いません。ならばせめて、夢の中だけでも楽しい時間を過ごしてください

深雪

薬……

どうしてだろう

さっきの男性の薬を求めてる姿見て、危険だって知ったはずなのに。


















今の私は、それがとても魅力的に見えた。

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