よりにもよって、一番叶えてほしい願いを。
それだけは、お教えできません
……どうして
どうして、応えてくれないの?
よりにもよって、一番叶えてほしい願いを。
さっきまでの私の様子を見てなかったのか。
もう、生きたくないのだ。
生きる以上睡眠をとらなければいけない。
そして、私にとって眠りは悪夢という拷問でしかない。
どれだけ、薬で表面を上書きされようとも。
確かに、私達は深雪様達が快適にストレスを感じることなく過ごされるよう努めることが役目です
ですが、それはストレスとは別次元の欲望であり、決して許容すべきものではありません。そのような願いを受け入れることは――――
これから先も、一生夢の中で殺されろっていうの? それがストレスにならないって、本気で言ってるの?
そう言いたいわけではありません。ですが、逃げるために死のうとするのはあまりに短絡的かと。死んでしまっては元も子も……
薬のどこが逃避じゃないって言うのよ!!
深雪様……
そんな綺麗ごとを並べないで。
死んでしまったら元も子もないことくらい分かってる。
もしかしたら、もう悪夢を見なくてもいい未来が来るかもしれない。
幸せな気持ちでベッドに入って、幸せな夢を見れる日が来るかもしれない。
だけど、もう疲れた。
待っていても、何も変わらない。
薬で夢を歪めても、所詮は現実逃避以上の意味はない。
きっと悪夢を見なくなる頃には、薬でボロボロになってるだろう。
このままでは、何も変わらないのだ。
ただ何も変わらず、悪夢にうなされるだけ。
だったら、死んで何が悪いのだろう?
目の前の苦しみから解放されたいと思って
そう思って、何が悪いというのだろう?
……もういい
深雪様、外出時間は過ぎています。部屋の外には出ては――――
メイドの声を無視して、部屋の外へ出る。
外出時間を過ぎたらどうなるのかは知らないが、もはやどうとでもなっていい。
ペナルティが死なら、望むところだ。
メイドの邪魔が入る前に、素早く移動する。
以前は忘れてしまっていた、21号室へ。
ううっ………ううん…………
紗耶香さん……
彼女は丁度眠っていたようだ。
薬を飲んだのかは分からないが、うなされているようだ。
布団を抱いて、眉がだいぶ寄ってきている。
ギュッと閉じた瞼からは涙がこぼれそうだ。
けど、そんなことすらどうでもよかった
…………
この部屋のメイドは寝ているのか、私に気づいた様子はない。
私はそっと靴を脱ぎ、寝ている彼女に近づく。
紗耶香さんから布団を奪い取り、仰向けにした。
むにゃ……みゆきちゃ―――――
ごめんね、紗耶香さん
そして、私は
彼女の首を絞め始めた。
みゆきちゃ……なんしてっ………!
ごめんなさい……殺しはしませんからっ
これこそ夢だったらいいのに。
手に力を込めながら、そんなことを思った。
これが、私の考えた死に方。
以前私に襲い掛かった人がメイドに殺されたのを思い出した。
他の部屋の患者を襲い、メイドに殺される。
もはや、手っ取り早い死に方はそれしか思いつかなかった。
きっと、私が目の前で殺されれば紗耶香さんは現実で悪夢を見ることになるだろう。
さっきの私みたいに、薬の効果にも気づくに違いない。
自殺のために人を殺そうとするなんて、あまりに自分勝手で愚かだと分かっていながら、私には他に逃れる手段が分からなかったんだ。
うぐっ……がぁっ…………!!
ごめんなさい……ごめんなさい…………っ
首を絞めながら、涙が止まらなかった。
どこまでも酷い人間だと耳元で誰かが嘲笑う。
苦しむ紗耶香さんを見るのが苦しくなってうなだれる。
それでも、手から力を抜くわけにはいかなかった。
早く……
早く私を殺して
紗耶香さんを殺しちゃう前に………
私を……殺して…………?
…………深雪様
ああ……これで…………楽になれる
お や す み な さ い