……?


 明るい空間に足を踏み入れた瞬間、喧噪が半減する。

……。

……。


 自分に注がれる遠慮がちな視線を『システム』の援助無しで探ると、フードコートの隅に陣取る、学生の標準服を身に着けた影が見えた。

なるほどね。

 大柄な形から察するに、職業科か普通科かは分からないが、『大人』になるための訓練を受ける高等学校に所属する者達だろう。

 尤理の、この世界を人工知能とともに管理する『管理者』を示す制服から目を逸らし、再び仲間達とのひそひそ話に戻ったグループからは見えない位置にあるテーブルに、尤理は食べ物の乗ったトレイをそっと置いた。

……。

アクセス完了。

学生達の行動は、既に把握済みです。

 左耳に配したイヤカフ型の情報処理機器を思考一つで操作し、このフードコートの喧噪の中で学生達の声のみを拾うことができるよう、『管理者』のみが使える『システム』にアクセスする。

で、その、『禁域』に行く手段、なんだけど。

もう少し小さい声で話せよ。
『管理者』いるんだぞ。


 予想通りに聞こえてきた『境界』・『禁域』という言葉に、尤理は大仰に息を吐いた。

全く。


 彼らは、このフードコートがある町から自走車で二時間ほど離れた場所にある、人が入ることを禁じられている、山の中の『禁域』に入ることを画策している。

ばかだねぇ。


 尤理はあっさりとそう評し、『システム』が学生達を『警戒対象』リストに登録したことを確認した。

あと、宜しく。

承知しました。


 疑わしきは、罰せず。だが、『境界』を越える者は、許さない。

 それに。

……。


 不意に脳裏を過ぎった光景に、口の端を上げる。

 『境界』の向こうには、何も無い。あるのは。

……。

 首を振って思考を追い出した尤理の口から出たのは、小さな溜息だった。

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