――DAY 2――

午前

店頭

ファイーナ(ファーヤ)

それで? 何をしようとしてるのかしら

っ……

店の前で、イリヤはファイーナに

 しっかりと腕を掴まれていた。


 女性だからと甘く見て振り回すと、

 自分の腕が折れかねない。

イリヤ(イーリャ)

……っはな、放してください! 僕は行かなきゃいけないんです!

ファイーナ(ファーヤ)

駄目よ!

あたしの言ったこと聞いてた?! こんな吹雪の中、森になんて入れないわよ!

それでも!

イリヤくぅん?!

!!!

凄みを利かせた声に、

大声とは違う驚きを感じて

 イリヤは身を震わせた。

このサスリカで生まれ育って! 何十回と大吹雪を経験した、あたしがね? 危険だって、言ってるの。意味わかるわよね?!

……



別人のような……


 いや、顔は間違いなく本人だった。
 
 笑顔のまま言っているのだ。

……は、い……

ファイーナ(ファーヤ)

分かってくれたら良かったわ。あたし、イーリャみたいなかわいい弟が欲しかったの! リーリャちゃんもね? この町には若い子ほとんどいないんだもん

店員

ファーヤ、僕は?

ファイーナ(ファーヤ)

『店員さん』、お仕事頑張ってね?

店員

……そういえば、僕の名前呼んでくれてない?

そうと決まれば、買い出しね!

え、なぜ

ファイーナ(ファーヤ)

イーリャ、持ってくれるでしょ? 今日はそういえば買い物に来たの

は、はい



 ファイーナは笑顔で食材を選び始めた。

イリヤ(イーリャ)

抜け出そうとしたら、今度は本当に腕折れそうだ……


 イリヤはモヤモヤとした感情を抱えながら、

 籠を抱えた。

まあ、手早く終わらせれば……

――DAY 2――



店頭

めっちゃ時間かかった

ファイーナ(ファーヤ)

ありがとね!

イリヤ(イーリャ)

はい……じゃ、僕はここで……

ご飯、食べてくでしょ?

なんで?

料理には自信あるから、損はしないと思うわ!

イリヤ(イーリャ)

そうじゃなくて、なんで僕に優しくしてくれるんですか?

ファイーナ(ファーヤ)

 ファイーナはきょとん、とした。

あたしたち、別に余所者が嫌いってわけじゃないのよ?

そりゃ、ちょっとおじさまおばさまは嫌ってるかもしれないけど

でも……

ファイーナ(ファーヤ)

『あの男』は別ね?

……

でも、あたし、ただ追い払うだけっていうのも嫌いなのよね

いつの間にか、ファイーナは

 貼りついた笑顔でなくなっている。

イーリャ、あの男と会うんでしょ?

こうやって頼むの、悪い気がするけど……あの男と、話してくれない?

……何を、ですか。
僕はまだ、何も知らないのに

そうねぇ。困っちゃうわよねー

……

イリヤ(イーリャ)

……ご、ごちそうさまでした

結局、ファイーナさん家でご馳走になってしまった……



 家には彼女以外誰もいなかった。

ファイーナ(ファーヤ)

私の一食と同じくらいだけど、その程度で大丈夫?

あまり、食欲がないので……ご飯は美味しかったです

そう?

ファイーナ(ファーヤ)

昼はいつも一人だったから、私は誰かがいるの楽しかったわ

ファイーナ(ファーヤ)

あ、そうだった、イーリャが食べてる間にいいことを思いついたの!


ファイーナは可愛らしく両の手を合わせた。

樹海の入口に小さなボロ小屋があるの。そこで人の出入りを見てればいいのよ!

小屋?

ファイーナ(ファーヤ)

ええ。あそこなら小さな薪ストーブがあるし、森に出入りする人をみんな見てられるわ

え、でも、それ、使っていいんでしょうか……

いいのよ、大丈夫!

ね、私応援してるから。絶対、元気な妹ちゃんに会わせてね?

 ファイーナはイリヤの手を握った。


 ひんやりとした、大人の女性の手だった。

pagetop