――DAY 2――

午後

町外れ

アダムスキー

それは、どういう意味だ?

イリヤ(イーリャ)

……アダムスキーさんがしたことを、少しだけ聞きました

……聞いちまったか

 アダムスキーは無表情のまま、

 少し横を向いて白い息を吐いた。


 何故だかそれが、風雪よりも白く見えた。

はぁっ……

分からないんです……

アダムスキー

何が?

僕は、何も詳しいことを知りません。だから……

はぁ

もしアダムスキーさんが酷いことをしてたなら、今も何か悪いことをするつもりでここにいるなら、最低だなってことしか思いません

アダムスキー

ほう

イリヤ(イーリャ)

すいません、言い過ぎました

アダムスキー

いや。聞き慣れてるからな

はぁ

……慣れてる、のか

アダムスキー

まあ、『あいつら』のことを
知ろうとするのは、
間違っちゃいない

アダムスキー

だが……「俺の」目的、か。

何だろうな?

え……

 小さく吐き出すような息の音は、

 苦笑だったのかどうか分からなかった。

はぁ

アダムスキー

俺の事は置いておいて、3年前の話をしないか?

イリヤ(イーリャ)

3年前?

アダムスキー

『神』を名乗る存在の正体を聞く覚悟はできたんだろ?

イリヤ(イーリャ)

『かみさま』……の、ことですよね

アダムスキー

そいつは人間ともただの獣とも違う

イリヤ(イーリャ)

化け物、ってことですか……?
森だから、大熊の伝承とか

アダムスキー

そう考えても良いさ。……まあ、俺たちは、『神話生物』と呼んでいるがな

神……話、生物?

はぁ

はぁ

なんで……殺しちゃったんですか?

はぁ

神話生物ってことは、神みたいなもので……でも、生きてたんですよね? 

自分の信仰じゃなかったとしても……この町の人たちはそれを信じてたのに、それでうまくやってたのに、そんなこと……

はぁ

アダムスキー

違ぇよ

なあ。もし、ここの『かみさま』とやらが生きていて、その生贄にお前の妹が選ばれていたら、どうする?

イリヤ(イーリャ)

そうなんですか?!
だからみんな黙って……

落ち着けよ、小僧。今のは例えだ

それにお前は、『奴』が3年前に死んだ、そう聞いたんだろ?

っ……

ただ、もし『そう』だったら……お前はそれでも、妹を助けるだろう? ここの町人のことは二の次だ

イリヤ(イーリャ)

それは…………


イリヤは答えを返せない。

そうだろうな

俺も答えは同じだった、ってことだ

Gnoph-Keh

アダムスキー

……それが、この町にかつていた神話生物であり『かみさま』だ

のふ、けぇ……?

人間に発音できる範囲内ではな

はぁ

アダムスキー

奴は吹雪を連れてくる

あぁ、冬にだけ現れる、って意味じゃない。文字通り、だ

吹雪……?! 文字通りってどういう、

おいおい、その口で言ったばかりだぜ。『神みたいなもの』だと

……

神に不可能はないんだろ?

風が、朔風が、肯定するかのように吹いた。








アダムスキー

そして、ここサスリカでは昔から、生贄を捧げることで冬の厳しさを和らげてきた。
生贄の命を代償に、吹雪を減らさせてたのさ

あ……!

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

『ここがこんなに冷えるようになったのも、

それからさ』

もしかして、そういうことだった、とか……?

イリヤ(イーリャ)

あの、さっき言ってたのって……アダムスキーさんは、大切な人が生贄にされそうになったんですか?

……

弱くは、なかったんですよね?

……さあな

はぁ

アダムスキー

それより、なんで俺がこんな話をするか分かるか?

イリヤ(イーリャ)

アダムスキー

……俺は、嬢ちゃんが裏の事件に巻き込まれたと、そう見てるのさ

それって……

気 を つ け ろ



その声は、重しのように一音一音、

肩に臓腑に沈み込む。

相 手 が 誰 に し ろ 、
お 前 よ り 全 て に お い て 格 上 だ

はぁ

はあっ

っは、ぁ……

少なくとも、こんなところで凍えてるようじゃ駄目だな

あれ、僕……

起きられるか?

ん……だ、れ……

ここは?!

森小屋とでも言えば分かるか?

アダムスキーさん?

アダムスキー

悪かったな、お前がサスリカの寒さにここまで弱いとは知らなかった

イリヤ(イーリャ)

……僕、ずっと外にいたから、寒さで倒れたんだ……

アダムスキー

宿までお前を負って帰るほどの自信はなかったからな、ここを借りた

ありがとうございます

まあ、苦労したのはお前を運ぶことより、ベッドから落ちそうになるたびに戻してやることだな

へっ? すいません

アダムスキー

それはさておき、今日のところはすぐに帰れよ。10時に空きっ腹で帰ることになるぜ

……アダムスキーさんは、このまま帰らないんですか?
どこに行くんですか?

秘密

旧式の薪ストーブ。



雪かきなどの道具。



窓の近くには、座りながら外を確認できそうな

小さな机と椅子

窓の外には、樹海の入口。

ここって、ファーヤさんが言ってた小屋だよね?

イリヤ(イーリャ)

本当に、使って大丈夫なんだ

ただここにいるだけでいいのかは分からないけど、とにかく明日、早くここに来よう……

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