――DAY 1――
夜
宿屋『サスリカ』
――DAY 1――
夜
宿屋『サスリカ』
やあ、ロッタ
ショーマ、お帰り。どうしたんだい?
シャルロッタはわずかに笑顔を見せた。
実は、鍵を失くしちまってな……
セミョーンはひらひらと空の手を振る。
あんたが? 珍しいね
シャルロッタはすぐにカウンターの下に屈んだ。
カウンター下には小さな古い金庫があり、
数字ダイヤルを合わせると開く。
その中から、鍵束が現れた。
『ミーシャ』にでも落としたかな
あんた、あそこに行ってたのかい
シャルロッタは、顔を曇らせた。
たまには花でも置いてやろうと思ってな
……
っ!!
目の錯覚、か……
……あまり、気に病むんじゃないよ
……ああ
シャルロッタは、セミョーンに鍵を手渡した。
さて、鍵のスペアは一つだけ。
もう無いからね
ありがとよ、ロッタ
じゃあ、あたしは見回りに行くからね。
中は頼んだよ
……誰だ! 何してるんだい
宿屋の外壁に沿うように立つ、
不審な人影がその声に振り返る。
……自分の部屋の窓を見ちゃいけないか?
ゆっくりと2号室の窓の前で振り返った
アダムスキーは、腕についた雪を払った。
……一体、何をしてるの
俺だって怪しいことをする気はないさ。こんなものが仕掛けられてなきゃな
アダムスキーが手中から取り出したのは、
手のひらに載るような小さな機械だった。
その奇妙な見た目に、シャルロッタは
見覚えがない。
見れば、2号室の窓の枠に積もっていた
雪がかきのけられている。
これが窓に取り付けられてた。これが何かはともかく、俺に何かを仕掛けているのは間違いないな?
し、知らない
シャルロッタは少し後ずさった。
今朝はそんなもん、無かったよ
へえ。今朝窓の外から感じた視線はあんたのものだったのか
……
ま、俺は勝手に警戒させてもらうだけだ
アダムスキーは歩き去っていった。
ふう……寒い
イリヤが帰って来たとき、
カウンターには誰もいなかった。
シャルロッタはその奥にいるようだ。
当然、ドアの開閉にも反応は無かった。
さすがに、カウンターを漁られても
気づかない程ではないだろうが……
今日は早く寝よう……
室内はさすがに温かい。
雪を払い落とし、髪をふるう。
ぽたぽたと滴が垂れた。
その頭に、タオルが被せられた。
こんな時間まで出歩いたのか?
あっ……アダムスキー、さん……
『何事にも、警戒した方が良いってことだ』
……
どうした?
何か収穫はあったか?
あ、それが――
『本当に聞いて良いのか?』
『アダムスキーは……』
……いえ、まだ全然、何も……
そうか
タオルの上から、手が乗せられる。
その強い感触に、イリヤは身を縮めた。
人から情報を聞き出すってのは、根気の要ることだ。
遅くまで頑張ったな
!
だが、サスリカは吹雪の夜ほど危険な町だ。あまり根を詰めるなよ
……
イリヤには、歩み去る彼をただ、
見つめることしかできなかった。
……分かりやすいな