――DAY 1――



宿屋『サスリカ』

セミョーン(ショーマ)

やあ、ロッタ

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

ショーマ、お帰り。どうしたんだい?

 シャルロッタはわずかに笑顔を見せた。

セミョーン(ショーマ)

実は、鍵を失くしちまってな……

 セミョーンはひらひらと空の手を振る。

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

あんたが? 珍しいね

シャルロッタはすぐにカウンターの下に屈んだ。



カウンター下には小さな古い金庫があり、
 数字ダイヤルを合わせると開く。



 その中から、鍵束が現れた。



『ミーシャ』にでも落としたかな

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

あんた、あそこに行ってたのかい



 シャルロッタは、顔を曇らせた。

セミョーン(ショーマ)

たまには花でも置いてやろうと思ってな

……

っ!!

目の錯覚、か……

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

……あまり、気に病むんじゃないよ

……ああ

シャルロッタは、セミョーンに鍵を手渡した。

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

さて、鍵のスペアは一つだけ。
もう無いからね

セミョーン(ショーマ)

ありがとよ、ロッタ

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

じゃあ、あたしは見回りに行くからね。
中は頼んだよ

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

……誰だ! 何してるんだい

 宿屋の外壁に沿うように立つ、

 不審な人影がその声に振り返る。

アダムスキー

……自分の部屋の窓を見ちゃいけないか?



ゆっくりと2号室の窓の前で振り返った

 アダムスキーは、腕についた雪を払った。

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

……一体、何をしてるの

アダムスキー

俺だって怪しいことをする気はないさ。こんなものが仕掛けられてなきゃな

 アダムスキーが手中から取り出したのは、

 手のひらに載るような小さな機械だった。


その奇妙な見た目に、シャルロッタは

 見覚えがない。




見れば、2号室の窓の枠に積もっていた

 雪がかきのけられている。

アダムスキー

これが窓に取り付けられてた。これが何かはともかく、俺に何かを仕掛けているのは間違いないな?

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

し、知らない



 シャルロッタは少し後ずさった。

今朝はそんなもん、無かったよ

アダムスキー

へえ。今朝窓の外から感じた視線はあんたのものだったのか

宿屋シャルロッタ(ロッタ)

……

アダムスキー

ま、俺は勝手に警戒させてもらうだけだ

アダムスキーは歩き去っていった。

イリヤ(イーリャ)

ふう……寒い

 イリヤが帰って来たとき、

 カウンターには誰もいなかった。


 シャルロッタはその奥にいるようだ。




 当然、ドアの開閉にも反応は無かった。




さすがに、カウンターを漁られても

気づかない程ではないだろうが……

今日は早く寝よう……

 室内はさすがに温かい。



 雪を払い落とし、髪をふるう。
 ぽたぽたと滴が垂れた。




 その頭に、タオルが被せられた。



アダムスキー

こんな時間まで出歩いたのか?

イリヤ(イーリャ)

あっ……アダムスキー、さん……






『何事にも、警戒した方が良いってことだ』





……

アダムスキー

どうした? 
何か収穫はあったか?

イリヤ(イーリャ)

あ、それが――

『本当に聞いて良いのか?』

『アダムスキーは……』

……いえ、まだ全然、何も……

アダムスキー

そうか

 タオルの上から、手が乗せられる。




 その強い感触に、イリヤは身を縮めた。

人から情報を聞き出すってのは、根気の要ることだ。
遅くまで頑張ったな

アダムスキー

だが、サスリカは吹雪の夜ほど危険な町だ。あまり根を詰めるなよ

……

 イリヤには、歩み去る彼をただ、

 見つめることしかできなかった。

……分かりやすいな

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