Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未来視の未来

4

   

   

   

 “異紡ぎの森”は、“迷いの森”とも呼ばれる。


 隣国へ向かう為の開けた迂回路がよほど遠回りなのか、無理を承知でこの森を行こうとする人が多い。

 しかし、この森の道をよく知らず安易な気持ちでいる人ほど迷い込んでしまう。

 迷い人は導かれるようにカノンの元へやって来る。

 そしてその度にカノンは城下町まで道のりを丁寧に教えていた。

 カノンの神秘的な美貌に見惚れつつ、お礼を言う人がほとんどだが、中にはそうでない人もいる。


姉ちゃん、やけに美人だが……人間か?

まわしてみるか? こういうすかした顔、ムカつくんだよな

 猟師風の、体躯の大きな2人の男。

 片方は大きな斧を、もう片方はクロスボウを携えている。顔や手足に無数の切り傷があり、ならず者といった感もある。

 森にいるめずらしい動物でも仕留めて金にしようと考え、案の定迷い込み、偶然見つけたカノンに森抜けの道を聞いていた。

 そしてカノンはいつものように教えたのだが、この森に場違いな存在のカノンに好奇を抱いたらしい。道案内してくれたカノンの親切をないがしろにし、自分達の立場を忘れて無粋な視線をカノンに向けた。



 実のところ、カノンはこの手の男達に慣れていた。

 群れることを知らずいつも一人でいるカノン。

 静かな場所が好きだから、自ずと人気のないところに向かうと、決まってこういう奴らが現れる。

 そして、全く怖くない。

 綺麗なカノンの顔を歪めてみたい、と嗜虐心にそそられるらしい奴等に、興味の欠片もなかった。

カノン

またか……

 冷めた思い。

 カノンは冷静なままため息さえ吐き出すと、男共は逆上した。

 今にも掴みかかりそうな勢いで、カノンに押し迫る。

チッ、可愛げがねぇなぁ!!
ちったぁ怖がるとかしろよ、ああ゛!!?

おい、コレ仕留めて奴隷商人にでも売ってやろうぜ。
金になりそうだしな!! 
俺等に媚びうるってんなら止めてやってもいいけどなぁ!! 

……何とか言えよっ!!

 脅そうとする二人だが、カノンは全く動じない。

 それどころか、尚更冷めていく。

 なめられていると思った男共は、手にした武器を構え大きく振りかぶった。

何とか言ってみろよ。可愛いことが言えたら許してやる。

そうじゃなかったら……どうなるか分かっているよな

 無粋に笑った、その時に。

クローブ

やめときな

 声が、別のところから聞こえた。

 威勢を削がれた男共が振り向くと、長身の若者が爽やかな笑顔を向けている。

 軽装だが、腰に細身の剣を差していて、多少、剣の道を知っているものならオーラで分かる……強い。

んだお前は!!?

 男の1人がくってかかる。

 余裕の笑みを浮かべる若者に、血管が切れそうになった。

すかしてんじゃねぇ、ガキが!!

クローブ

やだねぇ、暴言しか吐けない大人って

んだとっ!!

 構えた男が殴りかかってくる前に、若者は懐から掌ほどの大きさのレリーフを取り出した。

 そして男に見せ付ける。

クローブ

下がった方がいい
やるんなら相手になるけどさ、俺も弱いものいじめはしたくないし

 さり気なく見下した言い方だが、それも気にならない。

 彼の強さはそのレリーフが無言で物語る。

 それは、知る人は知る、前王レダの忠臣の証……


 職人によって丁寧に削られた金細工の虎。

 それは、レダ王直々に渡し申される、戦いに生きる者の誇りであり憧れだった。

 このレリーフは、コール派に対しては全く無意味なものであるが、レダを慕っていたものや、レダ王時代に強くなりたいと少しでも思ったことのある者に対しては絶大な効力を発揮する。


 それを見て、下がっていた方の男が青ざめる。

  彼は、このレリーフの意味を知っているようだった。

あん? それがなんの……

やめておけっ!!

 知らないほうの男がいぶかしんでいると、下がっていた男が止めた。

 血気盛んなようで何か言いたそうな顔をしたが、相棒の顔色の悪さに口を閉ざした。

行くぞ

 うながして、1人足早に立ち去ってしまう。

 もう1人は、舌打ちをして若者を一度睨んでから、先行く男の後を追った。

  




















   

クローブ

やれやれ

 そんな男共を見送って、長身の若者は方をすくめた。

コールが王になってからはならず者が多い、と嘆く。

クローブ

大丈夫でしたか?

 カノンに対しては丁寧な言葉を使う。

 カノンは頷いて、静かに口を開いた。

カノン

待っていた

中へ入れ、クローブ

 何事もなかったかのように言いながら、自分が先に小屋の中に入っていく。


 若者――クローブは、少し困ったように笑って、カノンの後に続いた。

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