Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
コール歴5年
未来視の未来
3
城から程よく離れた"異紡ぎの森"。
この森の中には、湧き水の溢れるポイントがいくつかある。
そのひとつの近くに、カノンの住処があった。
―未来が視える―
この能力は、他人にはない。あるはずがない。
どういうわけかカノンだけがこの能力を生まれ持っていた。
何も分からなかった幼い頃、
あの人、明日死ぬよ
通りすがりの老人を指差し大声で言って、周りの大人たちに叱られた。
親だけでなく、偶然その言葉を聞いていた見ず知らずの人にも叱られた。
後から知ったが、その人は有名な考古学者だった。
そして、次の日老人は本当に死んだ。
老人は病を患っており、いつ死んだところでおかしくなかった。
だから、大人たちはカノンが未来を視たとは微塵にも思わなかった。
カノンもまた、未来は誰にも視えるものであると信じて疑っていなかったので、皆知っていて黙っているものだと思っていた。
ただ、国が変わるとき――革命が起こり、レダ王が殺され、コール王が誕生する未来を視たときに、それは起きた。
大きく揺れる未来に、カノンは黙っていられなくなった。
子供心に、一大事だと思った。
レダの王様、死ぬよ。殺されちゃうよ。それでね、コールって人が王様になるの。ねぇどうしてみんな黙っているの?
とんでもないことを言いだすカノンに、大人たちは冷ややかな目を向けた。
子供だから、と甘やかされることはなかった。
偉大な王、レダが死ぬなんてとんでもない。
1番嘆いたのは親だった。
自分の子がまさか非国民のようなことを言うなんて……
親はカノンを自分の子だと扱えなくなった。
カノンに愛情を持てなくなった。
カノンの親もまた、異端児を生んだと、作り上げたと世間から排除されかけた。
しかし……
あれは私の子供ではありません
強く否定し続けると、親の罪は免除された。
その分、カノンを見る大人たちの目がさらに鋭くなった。
それでも、カノンはレダ王が死ぬ未来を言い続けた。止められなかった。
何とかしないと……!
レダ王の大きさも、自分の小ささも知っている。
子供の自分では何も出来ないと分かっていた。
だから、未来を変えることを周りの大人たちに求めた。
しかし相手にされることはなく。
カノンは、城下町からこの異紡ぎの森に放り出された。
自分がこの森に住むようになることは視ていたが、この時に初めて未来視の能力は自分にしかないことに気が付いた。
今更気付いても遅かった。
捨てられた……。誰からも、見放された。
この思いは、カノンからゆっくりと感情を奪っていった。
もう、誰に何を言われても揺るがない。
カノンの噂を聞きつけて、当時、強行革命派の1人だったコールがやってきた。
あなたは面白いことをいうね
そう言って、お金やパンを差し出した。
カノンはコールに素直に甘えた。
今の自分を助けてくれる人はこの人しかいない。
それも全て分かっていた。
自分を捨てた大人たちを憎む気持ちはなかった。だが、寂しかった。
カノンが20歳になったときに、国が変わった。
カノンが視たように、レダ王が暗殺され、コールが王位についた。
回想に浸りながら、カノンはりんごをかじっていた。
りんごが1番好きだった。
このままだと、クーデターは起こる。
外れた未来などなかった。自分が視た未来を、自分が1番信じている。
コールには恩があるため、そんな未来を現実にするわけにはいかなかった。
どうすればいい? 何とかしたい。
でも、未来を視る以外、自分に出来ることは何もない。
ふと、考えるのをやめて、周りにあるものを見渡してみる。
思いつまったときのカノンの癖。開放を求めて出口を探しているような。
この家の中にあるものは全て手作りだった。
テーブルも、カノンが座っているイスも、ベッドも食器も、小さな小物から何から何まで全てがカノンの手によって作られたものだった。
材料は自分で調達してきたり、通りかかった猟師に分けてもらったりした。
始めの頃は、まさかのこぎりやカンナがこんなに難しい道具だとは思っていなかったけれど……
……
カリ……とりんごを一口かじる。
そのカノンの物憂げな瞳に、見る人は吸い込まれただろう。が、カノン以外には誰もいない。
カタン。と音がした方を見やれば、森リスが2匹、こちらを見ていた。
……お前たちも食うか?
テーブルの上にあるりんごをひとつ差し出すと、リスたちは嬉しそうに近寄ってきた。