負傷兵を抱えて山を登る拓。
んしょんしょ……
負傷兵を抱えて山を登る拓。
ハアハア……
にゃ（だいぶ大変そうね）
デブにはキツイですよー
手伝ってあげましょうか？
にこっ
うぎゃー！ 恐怖の笑顔！
なんなのよ、サリエルといい……
殺さないでー！！
もう二度と言わないわ。このポークビッツ！
おお！ 誰じゃそのイケメンは！？
……！？
なんでサリエルまでこの星に影響されてるのよ
誰ですかこの幼女
私は拓に経緯を説明する。
そしてサリエルは意識を失っていた負傷兵の手当てを施してくれた。
その回復した負傷兵からまた順繰りと、残りの負傷兵たちも手当てを受ける。
こうして彼らも魔王城へ攻め込む戦力として復帰できたのだ。
その後、サリエルの噂は広まり、沢山の怪我人が訪れたそうな。
私達が魔王城へ攻め込んでいる間に、百人計画も達成できそうね。
その後、クレアの計画通り私たちは魔王城に攻め込むことに成功した。
しかし魔王を従える黒の魔術師は手強く、苦戦を要する。
俺のこと、忘れないでくれよ……
なんだよ！ 忘れるもんか！
お前は、幸せになれよ……
ああああああー！！！
バカね……あなたはこれから、私の死が無駄じゃなかったってことを……証明するの……
いやよ、あたしのそばにいてよ！ これからも！ ずっと！！
頼んだわよ……
激闘の末、魔術師の手によってシンとクレアを失ってしまったのだ。
そんな……
マリのもとへ戻った拓は、シンとクレアの死を告げる。
あたしは国を立て直すわ
それがクレアへの恩返しだから
僕は……マリさんにお願いがあります
血をください
まさか……貴方
僕はあいつを……あいつをなんとしてでも倒さなきゃならない
黒魔術……ですか
でも、あれは代償が！
ええ。大切なものを奪われるという
そんな！ 拓雄さんまでいなくなったら、あたしもう……！！
シェリーは瞳に涙を浮かべる。
いなくならないよ。勝つためだから
……拓雄さんが全部背負わなくても！
シェリー、いいかい？ 君は国を背負うんだ。それは君じゃなきゃできない
いま君にできること、そして僕にできること。仲間のために、世界のために
……今は獅子奮迅するんだ
こうして拓はマリに血を貰い、共に例の小屋へと向かうことになった。
にゃ（その前にサリエルの様子を見に行ってもいいかしら）
もちろんです。天界に帰れているといいですね
おお！ 姉様か！ おかげで封印が解けたぞ！
目標の人数は達成できたのね
これで妾は天界へ帰れる……ありがとう姉様っ
良かったわね
姉さまも早く戻ってきなされよ。待っておるからの！
……そうね。あなたももうこんな無茶なことはしないで、癒やしの天使としての職を全うするのよ
うむ！
下界はなかなか良いとこじゃった！
みなが他人を想いあっておったわ！
……そうね
サリエル、あなたのその純粋に感動できるところが羨ましくもあるわ。
まるで人間のような。
例え私が戻れなかったとしても、
彼女なら私のあとをしっかりと引き継いでくれることでしょう。
また天界で会おうの！ 絶対じゃぞ！！
……じゃあね
そう言って私は小屋を後にした。
またねとは言えなかった。
もう二度と会えないような気がしたから。
天界に戻りたくない訳じゃない。
でも、私に足りないものはなんとなく自覚している。
神がなぜ私を下界に堕としたのか。
その理由に気付き始めている私がいるから。
下界は醜さと悲しみで満ち溢れていた。
それと同じ分だけ、美しさと慈しみが満ち溢れているとも思う。
天使らしい天使にはなりたくなかった。
誰もが幸せな世界なんて虚構。
その考えは今でも変わらないし、醜いものがあるからこそ美しいものがあることも知ってた。
だからこそ私は、美しい側の天使でいたかった。
ただ下界に来て気づいたこと。
それは本当の醜さを知らない美しさなんて、上っ面。
本当の悲しみを知らない優しさなんて、偽善。
その２つは相容れないようで、常に表裏一体。
悪魔がいて天使がいるように。
天使が悪魔へと堕とされることもあるし、悪魔でさえ正義になることもあるのだろう。
だからこそ。
この世で最も、醜くも美しい天使になってみたいの。
それが叶わないのであれば、堕天されても良い。
美しいだけの天界には戻りたくない。
何も知らない自分には戻りたくない。
そう、最も人間らしい天使に……なりたい。
さよならサリエル。……ありがと
こうしてサリエルは天界へと帰っていった――
天界にて――
ふむ
不器用なりに、変わりつつあるようじゃな。ラファエル
