行こう、友美先輩。
うぅぅ……。
これは想像以上に来るぞぅ……
少女は自らの出で立ちを鏡で見ると
親友を話題のネタにした自らを悔いた。
これが因果応報なのだな、と。
紗希さん、誂ってホントごめんなさい。
良いか、那由汰。
もう一度だけ言っておく。
家を出ようとする少年に
老婆は釘を刺す。
決して黒曾に交わるな。
これだけは
気に留めておくのだぞ。
うん、分かった、ばあちゃん。
暗闇の捜索
日のすっかり落ちた夜道。
村の中の数少ない街灯の光を補うかの如く
月の光が足元を照らす。
幸いな事に今日は満月。
夜道は思いのほか見晴らしが良かった。
もうすぐ、紗希姉ちゃんちだ。
何事もなく帰っていれば
一番良いんだけどねぇ……。
二人は
紗希の家から学校までを調べるべく
瀧林家を目指す。
夕刻の雨に湿った地面は
先を急ぐには程よい柔らかさで
ひた走る二人の足音を鳴らす。
ふぅ……。
ここまでは無事着けた。
……けど。
特に何事もなく瀧林家へと着いた二人。
しかし、少女の淡い期待は裏切られ
家から漏れる光はなく
全ての部屋が消灯したままのようだった。
瀧林先生も、紗希姉ちゃんも
まだ帰っていないみたいだな……。
探しに行きますか。
……。
ホントに誰もいないのか……?
那由汰は
何かが心に引っかかていた。
あの時……。
瀧林先生がでていった時……。
あの時は確か……。
雨はやんでいたけど……。
まだ明るくて……。
君らはもう帰りなさい。
……わかったね。
そう言って先生は
そのまま出かけていった。
那由汰の心の奥に浮かび上がる疑念。
それなら、なぜ……。
それを晴らすかのように
その指をインターホンへと伸ばす。
……なぜ、あれは
閉まってるんだ?
ヒッ!
静寂の中にとつぜん響く呼び鈴の音に
気を張っていた少女は
いたく驚いた。
おおぅ、びっくりしたー!
心臓に悪いよ、那由汰くん。
どうしたのさ。
……。
少女の問いかけにも答えず
那由汰は中の様子をじっと伺う。
!
ふと、那由汰の視界の上端に
動く何かが写り込む。
反射的にそちらを振り返る那由汰。
しかし、そこには
ベランダの手すりがあるだけで、
他には何もなかった。
何かいるのか……?
家の中に気配を感じた那由汰は
門戸を開け、
玄関のドアノブに手をかける。
ちょちょ……。
何をしようとしてるの、
那由汰くん。
少年の突拍子もない行動に
少女は戸惑いを隠せない。
……開いてる。
那由汰くん。
わかってると思うけど、
勝手にあがっちゃダメですよ?
少女は少年を諌めようとするも
少年は止まらなかった。
友美先輩、入ろう。
聞く耳持たずですか。
照明の明かりがない屋内は
外から差し込む月明かりだけが頼りだ。
ドアを閉じてしまうと
その僅かな月明かりさえも目減りしてしまい
捜索が困難になる。
暗いな……。
那由汰は自分の記憶を頼りに
壁にある電気のスイッチを入れる。
しかし、照明はつかない。
どうやら停電しているようだ。
こ、こんな事やめて、
紗希を探しに行こうよ、
那由汰くん。
開いていたカーテンが
閉まっていたんだ。
突然、那由汰は友美に語り始めた。
え?
先生が出かけた時は
確かにカーテンは開いていた。
だけど、今は閉まっている。
それはつまり……
つ、つまり?
先生たちが一度帰ってきたか、
あるいは……。
あ、あるいは?
その他の誰かがカーテンを閉めた。
那由汰くん、ちょっと待ってよ……。
それって、どっちにしても良い結果が思い浮かばないんですけど!
だからこそ、今確認しておかないと
マズい気がするんだ……。
んんー……。
もし、紗希姉ちゃん達が帰ってきた後に
何者かに襲われていたとしたら……。
確かに……一理あるね……。
助けられるなら、早いほうがいい。
仕方ない、わかったよ……。
でも、靴は脱いで上がろうね。
少女の言葉に二人はしゃがんで
靴を脱ぎ始める。
すると、落とした視線の先に
月の光を反射する金属性の物があるのに
那由汰は気がついた。
ん……これは?
手を伸ばして金属製の物を取ると
それは、非常用の懐中電灯だった。
那由汰は懐中電灯のスイッチを入れてみる。
良かった、点くぞ。
これで暗闇を照らせる。
靴を脱ぎ、光を手に入れた二人は
闇の奥へと向かっていく。
カーテンの閉められた部屋へと。
つづく