夕焼け沈む街の中。偶然信号待ちで止まったところで、男と友人は久々に顔を合わせた。

友人

久しぶり。
少しは落ち着いたかい?

もう二カ月も経つのに、
相続やら何やらで
忙しい限りだよ。

友人

気を落とさずに。

それはこっちのセリフだ。
お前には爺ちゃんが世話になった。

友人

どう考えても逆だよ。

…………。
葬儀や相続手続きの多忙さは、
悲しみを和らげる昔からの
知恵なんだろうな。

 そんな事を男は口に零した。

そちらは?

 友人の隣には、年上であろうスーツの男が背を曲げて立っていた。

先輩

じ、自分は、
お、覚えています。
以前、こ、公園で、
三人で歩いている時に……

あっ!? あの時の……

友人

先輩は現在、
就活中なんだ。

 男は思い出した。ホームレスだ。三人で郊外のレストランに行った時、川沿いの公園で見た友人の先輩だ。一人の人間の再生を見せられ、男は感動した。そして、そのきっかけになったであろう友人を誇りだと思った。

友人

今からM社の面接なんだよ。
うまくいけば君の
後輩って事になるね。

その時は何でも言って下さい!
コイツの先輩なら
俺の先輩みたいな
もんっすから。

先輩

い、いや、そそ、そんな
先輩だなんて、
と、と、とんでもなぃ……

 男は自信のなさそうな先輩を見て、面接は厳しいと心の内で巡らせた。
 社会復帰しようとするその行動は、勇気を振り絞っているに違いない。おそらくは男や友人が思う以上に、労力を費やしているのだろう。

頑張って下さい!

 男はそれだけ先輩に伝え、友人と別れた。

 ――半年後。






























 男は女を残して死んだ。


















 朝の通勤ラッシュで、通過する列車に接触したのだ。即死だった。酷い混雑だったので事故として処理された。

洋一さんがなぜあんな事に!

 深い悲しみに沈んだ女は、友人に向かい何度も何度も返答の出ない質問を繰り返した。

友人

…………

なぜ? 教えて!
間宮君!

 ――そして三年後、女は友人と再婚した。

第四話に続く

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