祖父の真剣な思いを感じずにはいられなかった男は、少し背筋が伸びた。


　祖父の話は長話になったが、要約すると、自分自身のとった行動が原因で、その友人とは袂を分かつ事になったらしい。

　男と女は目を合わす。少し照れくさそうにして、ニコリと笑顔を交えた。

　男は女の隣にシャンとして座り、胸を張って伝えた。

　端的なその言葉に祖父は目を剥いた。その後、長年蓄えたシワをさらに深くして喜んだ。

　女は照れたまま、二人の会話に笑顔を加えた。祝福されているのが嬉しいのだろう。綺麗で美しい瞳は潤んでいた。

　友人も祖父の話を盛り上げる。男は屈託なく笑い声を上げた。




『歳をとっても変わらない。そしてこの時は忘れない』

男がそう言い、女は大きく頷いた。

　男は今迄以上に精を出した。女もそれを支え、友人も保険会社に就職する事が出来た。




　とある休日。三人は昼食を郊外のレストランで楽しんだ。川沿いの公園で腹減らしに歩いていた時、友人が驚いた声を上げた。

　驚く事に、先輩と呼ばれた男は、誰がどう見てもホームレスだった。薄汚れた衣服からはすえた匂いが流れてくる。目は暗く沈み、声はかすれ力なかった。


　高校時代の剣道部の先輩との事だが、見る影もないのだろう。普通、関わりたくないと思うのが正直なところだ。しかしこの後、友人は一人で暮らすアパートに招き、飯を振舞い話を傾聴した。
　友人とはそんな人間だった。

　男は女と近くのアパートで暮らしていた。祖父は地主で、離れの住まいもあったが、祖父には、「自立すべき」との意見が根強くあり、離れて暮らす事になったのだ。
　そうは言っても、時折集まり食事を楽しんだり、近況を報告しあったりしていた。


　友人も少し街を離れる度にお土産と言い、祖父が喜びそうな漬物などを買ってきていた。人並み以下の給料だと日頃から嘆いているのに、祖父の喜ぶ顔が見るのが大好きだったようだ。

　そして男と女が結婚してから三カ月後。祖父の体調が悪くなった。食欲が細くなり動く事が億劫になってきているようだった。














　そして一度崩した体調は、急速に悪化の一途を辿り、更に三カ月後に祖父は逝った。

第三話に続く