その日、また露樹さんは俺の部屋にいた。
江岸はあのあとすぐに帰ったが、直前に

江岸 梨奈

工藤くん、あたしに出来ることがあったらなんでも言って


と言い残した。

工藤 柊作

…………っ

露樹さんに殴られてから、涙が止まらなかった。
止めようとしても、まるで洪水のように流れ落ちていく。
江岸が帰るまではなんとか耐えれたが、すぐに泣き崩れてしまった。

そんな俺を、露樹さんは昨日のように包み込んだりせず、外の月を見ては、時折チューハイを口に運ぶだけだった。

日付が変わり、今日は日曜日。
学校が休みであることに、今ほど感謝した時は無かった。

露樹 梓

あんた、どうするの?


結局夜通し付き合ってくれた露樹さんが言った。

露樹 梓

昨日ドタキャンしちゃったんだ、ちゃんとみんなに謝るとか、そういうのを行動で示すとかしないと

工藤 柊作

そうですね……。何とかしないと、評判が悪くなって住みにくくなる

露樹 梓

なんか捻れてる気がするけど…まぁいいか


ため息をつく露樹さん。
正直なことを言ったつもりなんだが。

露樹 梓

策はあるの?

工藤 柊作

一応、昨日泣きながら考えてたんですが……

露樹 梓

泣きながら考えれるって……器用だね


変なところで感心された。

工藤 柊作

昨日の二次会が市の人間を全員集めてパーティーするという内容だったんですが……それをやろうと

露樹 梓

うーん…。悪くはないかもしれんが、昨日と同じ内容をそのまま催すのはどうだろう?少しでも工夫しないと、相手に何も感じてもらえんぞ

真面目にアドバイスをくれる露樹さん。
だが、俺の中では既に案が出来上がっていた。

工藤 柊作

大丈夫です。みんなが楽しめる企画を考えてありますから

露樹 梓

……それはどんな?

工藤 柊作

じきに分かります


はぐらかす俺に襲いかかる露樹さんを退け、家の電話を取る。

江岸 梨奈

もしもし…?

工藤 柊作

もしもし。江岸?

江岸 梨奈

うん。どうしたの?

工藤 柊作

ちょっと頼みがあるんだけど


電話越しに江岸が緊張するのが分かった。

江岸 梨奈

いいよ。どんな?

工藤 柊作

綾瀬さんの家って料亭だったよね?

江岸 梨奈

うん

計画は既に出来ている。
……計画と呼ぶのも気がひけるほど単純なものだが。

工藤 柊作

家、どこか分かる?

江岸 梨奈

うん、よく遊びに行くし

だが、成就させるには終始俺が動かないといけない。
気を抜けば簡単に破綻する。


すべては俺次第だ。

工藤 柊作

今から岸ノ荘に来れる?

江岸 梨奈

うん


だが……

工藤 柊作

…連れていってほしい


成功させないといけないんだ……

視界の端で、露樹さんが小さく笑うのが見えた。

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