家に着いた瞬間に躰の緊張が一気に抜けた。
鞄を放り出し、畳の上に横になる。

工藤 柊作

…………


目を閉じると、さっきの江岸の顔が脳裏に蘇る。

江岸 梨奈

……バカ


その通りだと自分でも思う。
江岸に会って、少しでも変わろうと思ったんじゃ無かったのか。
こんな早速躓いていいわけないのに……。

ドアが開いた。
誰かが部屋に入ってきた。

露樹 梓

入るよ

工藤 柊作

既に入ってるじゃないですか


露樹さんだった。
チューハイ片手に俺の顔を覗き込んでいる。

露樹 梓

梨奈が外であんたを待ってるわよ


呼びに来たらしい。
そういえば、江岸の下の名前は梨奈だった。

露樹 梓

みんなに知らせて来たんだって。あんたは二次会に参加しないって


衝撃が躰を貫いた。
また視界がぼやけそうになる。

工藤 柊作

……入れてあげて下さい

露樹 梓

分かった


5分後、俺は机を挟んで、江岸と向かい合うように座っていた。
露樹さんは俺達の間で仁王立ちしている。

江岸 梨奈

…………っ

江岸の顔は昨日と同じくらい真っ赤だった。
こうしてる今も、彼女の頬を涙が落ちていく。
罪悪感で胸がいっぱいになる。

江岸 梨奈

……ごめんね。一人になりたいって言われたけど、やっぱり気になっちゃって……

クラスのメンバーにはメールで事情を説明し、今日の予定を撤去してもらったらしい。

工藤 柊作

ごめん、俺のせいで…

江岸 梨奈

ううん、あたしのせいだよ。あたしが工藤くんにちゃんと聞かなかったから、不快な思いさせちゃったんだよね…。
本当にごめんなさい……


江岸は悪くない。
その言葉が喉につかえたように出なかった。

露樹 梓

事情は分かった

露樹 梓

今回は、柊作くんは…仕方ないか。君の過去を考えると、クラス全員との昼食に耐えれただけで大したものだ

再び顔を歪める江岸。


俺は戸惑いながら江岸を見ていたら、横から襟を掴まれた。

露樹 梓

……でもね!!


乾いた音が部屋に響いた。
江岸が息を呑む。
露樹さんが俺に張り手を浴びせたのだ。

思わず床に倒れる俺。
江岸が駆け寄る。

露樹 梓

甘えるなよ…

露樹さんは怒り、肩で息をしていた。

鋭い視線が俺を貫く。

露樹 梓

あんたに何があったかは知ってる、同情できる程にね。
でもね、世の中甘くないんだ。いつまでも過去に縛られて前に進めない人だって沢山いる。あんたは過去と向き合って、乗り越えるんだ!それがあんたが前に進む唯一の手段なんだ!

工藤 柊作

…………っ!


露樹さんの言葉が矢のように胸に突き刺さった。

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