――DAY 1――
昼
飯屋『ミラ』
――DAY 1――
昼
飯屋『ミラ』
あの、すいません。こんな見た目の15歳くらいの子……
知らん
あの~
……
飯屋を一人で切り盛りする女性は、
宿屋の主人以上に無口だった。
……
もう、三軒目だ。
このまま続けても……
じゃあ、ここ以外の飲食店を全部教えてください
なに?
妹は確かにこの町に来たんです。
ホテルじゃ朝しかご飯は出ません。どのお店でも知らないって言うんなら、誰かが嘘を吐いてるって証拠になります
……面倒臭い
すいません、でも
注文は?
え?
昼はまだなんだろ?
食ってきな
え、えと
こんなに店に居座って、食ってかない気じゃないだろ
……はい
ふう……
窓外には雪が絶え間なく降り積もる。
客が一人でも店主は
厨房をせわしなく歩き回っていた。
外はこんなに寒いのに、暑そうだ
ほい
ボルシチとピロシキ、パイ包みのシチューが
簡素な器に盛られて無造作に出される。
やや量が多めだった。
いただきます
!
うまい
田舎町のごくありふれた個人店だ。
彼女も、ただの主婦にしか見えない。
筋の気になる肉に、荒っぽい味付けの野菜。
高級な料理なんて食べたことはないけれど、
きっと同じ値段でもっと「美味しい」料理を
出す店など都会にはあるのだろう。
それでも、そんなことより……
母さんの味だ
……あんた母親は
……小さいころに
そう
……
……
リーリヤって娘だろ
!
いきなり話を振られ、
イリヤは喉にピロシキを詰まらせた。
げほっ、げほ
え?
ウチばっかに来てた。
アンタと同じこと言って
お母さんの味みたいで、
落ち着きます!
……2日前、ばったりと来なくなっちまった
2日前?
……ここじゃ、人がばったり来なくなるなんてことぁ、珍しくない
でも……宿にも、いなくて
人っこ一人消えちまうことなんざ、ざらだよ
どういうことですか?
女主人は、深く息をついた。
ここには、『かみさま』がいらっしゃらないからね
『かみ』、『さま』……?
直感で、普通の神ではないと分かった。
ロシア正教会の神でも、
ユダヤ教の神でもない。
仏教の仏でもない。
бог(ボーク)。
他に言いようがないから、
その単語を使っているだけなのだ。
何、なんですか……
イリヤの脳内に、なぜか警告音が鳴り響いた。
これ以上聞くことを恐れるような……
それでいて、
知りたい気持ちを抑えることはできない。
口が勝手に動いているかのように、
イリヤは問いを続けた。
……『かみさま』って?
そのとき、扉が大きく開かれた。
大変だ!
ミラ、あの野郎が来てるんだ!
男の人と一緒にいるのは、宿屋の……?!
あの男って……
アダムスキーだよ!
ロッタの奴、昨日泊めたらしい
……
アダムスキー?!
アダムスキーさん?
……アンタ。
アダムスキーの知り合いか?