――DAY 1――
朝
バール(бар)
――DAY 1――
朝
バール(бар)
おい、まだ開店前だ。
こんな朝っぱらから何の用――
……
……久しぶりだな
この町唯一の居酒屋、バールには
決まった名がない。
勝手に開けられたドアの音に
カウンターの奥から出てきた男は、
とたんに、じろりと眼光を鋭くした。
邪魔するぜ
アダムスキーは返事を聞く前に席に着く。
この町に何の用だ?
用事がないと来ちゃいけねぇのかい?
ふん
一日中店に閉じこもってりゃ分からないかもしれないが、今日から大吹雪で町を出られそうにない。しばらく留まるよ
昨日から居たのか?
よくも戻ってこれたものだな
相変わらず腹の底の読めない奴だ
そのとき、再びドアが開いた。
サーヴァ、居るか?
……って
中に躊躇なく入ってきた青年は、
アダムスキーを見てその動きを止めた。
……
……セミョーン
……ずいぶん余裕そうだな、アダムスキー
こわばった表情で言うと、
セミョーンと呼ばれた青年は
アダムスキーから離れた席に腰を下ろした。
セミョーン・モルチャリン。
(愛称ショーマ)
情報屋、男。
ミドルネームは不明で、
この男についても
それ以上の個人情報がほとんど出回っていない。
何の用だ?
お前も情報屋の端くれなら、当ててみたらどうだ?
次会ったらただじゃおかない。
そう言ったはずだ
おい、俺は今、手ぶらだぞ?
さすが、同胞殺しのプロを飼ってる奴は余裕が違うな
……なに?
アダムスキーの動きが止まる。
軍人だったジャップ(日本人)を使ってるんだろ?
戦争で俺達の血を大量に吸った
日本刀を振るうって話だ
俺も、『情報屋の端くれ』
なんでね。
知ってることもある
さぞや汚れ仕事が
多いんだろうなぁ?
……
……
……ふっ。
アダムスキーは、表情を緩めると立ち上がった。
お前ほどじゃない
待て。いつまでここに、何のために居座る気だ?
さあな
アダムスキーは、心なしか満足そうに背を向けた。
邪魔したな
……ああ、一つだけ言っておく。そこの棚のヴィンテージ、そのうち高い値がつくぜ
出て行くのと引き換えに、
容赦のない冷たい風が入り込んでくる。
……
ショーマ……
気にするなよ、サーヴァ。
同じ情報屋として、「3年前の事件」を止められなかった責任にかけても、あの男が妙な真似をしたらすぐにでも突き止めて追い出してやる
頼む。……それで、何の用だ?
こんな寒い日にはウォッカの一杯でも欲しくなってな。
だが、出直すよ。
夜にでもまた会おう
……ああ
ぅあっ!
べ……ベッドから落ちた……?
イリヤは顔をしかめて大きく伸びをすると、
床の上から起き上がった。
ふぁーあ……寝すぎた……昨日遅かったもんな
頬をポリポリと掻くと、
ボサボサの髪のまま身支度をする。
朝食食べ損ねたかな……あ
2号室だったよね
アダムスキーさんいるかな?
あの男なら出かけたよ
!
あ、そうなんですか
……
それより、昨日の……
アンタ、あの男に近づくと祟りが起きるよ
え?
あいつとは関わらないことだね。
ろくなことになりゃしないよ
何故ですか?
……
返事は返ってこなかった。