千乃

~♪ ~~♪

今日は、事務所の中で、千乃がせっせと粘土細工で遊んでいる。

千乃のその姿はもうみんなが見慣れていて、すっかり日常の光景となっている。

プロデューサー、お茶をどうぞ

プロデューサー

ああ、ありがとう、楓

楓が僕の仕事用デスクに湯のみを置く。

ああ、今日も平和だなぁ……。

つかさ

まぁっ、千乃さん、それは一体何を作っているのでしょう!?

そんな中、ふと、事務所内にいたつかさが、千乃の行動に興味を示した。

あっ……


楓がデスクに置いた湯のみを倒してしまった。

プロデューサー、ごめんなさい

プロデューサー

あ、ああ大丈夫だよ、拭けばいいだけだから

僕も楓も、急いでこぼれたお茶を片づけつつ、若干手が震えてしまっていた。

何もお茶をこぼしたことに動揺しているわけではない。

あ、ああ……そんな……だめ……いけない


ソファーでくつろいで本を読んでいた唯までもが、顔を上げて青ざめていた。

千乃

んー? あー、えへへ、つかささんかぁ

つかさ

はいっ、私、千乃ちゃんが作っているもの、とっても気になりますっ!

千乃

ふっふっふー、知りたいのかな? 知りたいのかなぁ?

つかさ

教えてください! はぁあああんっ、教えてください教えてくださぁい!


二人ともテンションが上がって、すごく楽しそうだ。

千乃の制作物に誰よりも食いつていくのは、いつもつかさなのである。

まぁ、好奇心旺盛なお嬢様のつかさにとって、千乃の存在自体が心躍らせる対象になるのは分かる気がする。

千乃も、いちいち反応が面白いつかさのことが気に入っているようだし。

いつでも称賛の嵐に満更でもない様子。

というわけで、この二人はとても相性がいいのだ。

それは良い。良いのだが。

プ、プロデューサー……どうしますか?

不安げな表情で、唯がそばにやってきた。

プロデューサー

う、うん。もうちょっと様子見かな……? 楽しそうなのは良いことだし

そんな悠長なことを言っていて良いのでしょうか

あのふたりを止めるべきなのでは

プロデューサー

う、うん


こそこそと相談し合う僕らを尻目に、千乃とつかさはますます盛り上がりを見せている。

千乃

千乃はね、今ね、深淵なる闇を切り裂く翼を制作しているんだよ?


思ったよりディープな制作物だった。

つかさ

ふわあぁあっ、なんと、なんと素晴らしい……っ!

つかさ

千乃さんはすごいのです! こんな感動的な作品は、いまだかつてありません!

千乃

えへへ、そうかなぁ?

千乃

ふっふっふっふっふっふ~ん♪

ああっ、千乃がとても嬉しそうだ!

千乃

そんなに褒めてくれるとね、千乃嬉しくなっちゃうな?

つかさ

私、千乃さんのことをとてもとても尊敬してしまいます!

千乃

ふふぅん、そう? そう?

千乃

千乃、なんだかすごく幸せな気分だな


ああ、あれはめっちゃ調子に乗ってる顔だ……!

千乃

でもこれ、まだ未完成なんだよ?

つかさ

そうなのですか!? こんなに素晴らしいのに!?

つかさ

これが完成した時、私は感動でどうにかなってしまいそうです……っ


ただの粘土細工にそこまで感動できるつかさもすごいよ。

千乃

じゃあじゃあ、つかささんの為に、もっともーっとはりきっちゃおっかなー?

つかさ

はいっ! ぜひぜひ!

目をキラキラ輝かせて、つかさは千乃にまとわりつく。

千乃

んー……もっと壮大なスペクタクルを現したいんだ


と、言いつつ、こねこねしていた粘土に何かを混ぜだす。

っ、プロデューサー! もう黙っていられません……! ここは私が!

じむしょのへいわをまもらなくては

プロデューサー

唯も楓も、そんなおおげさな……

千乃

ほら、粘土が増えていくよ~、どんどん大きくなるよ~

つかさ

わぁ、すごいのです! 千乃さんすごいのです!


何を混ぜたらそうなるのか、確かに粘土が膨れ上がっていた。

なんかウネウネ動いているし!

もはやそれ、粘土じゃなくなっている!

千乃は調子の乗ると、芸術家魂に火がつきすぎて、とんでもないものを作り出してしまうのだ。

こわい


楓が本気で怖がっている。

プロデューサー

ち、千乃。もうそのへんにしといたら?

プロデューサー

楓が怖がってるし、ほら、そんなに大きなものだと、事務所の邪魔になるだろう?

千乃

うん、そうかな?


千乃もやりすぎたと思ったのか、粘土を隅に追いやった。

あっさりやめてくれて良かった……。

千乃

じゃあ次は何を作ろっかな

つかさ

わぁぁ、楽しみなのです、とっても楽しみなのです!

千乃

ふっふっふー、つかささんの為にはりきっちゃうね?

千乃ははりきりすぎなくていいからっ

千乃

んー、そっかぁ、くたくた

千乃を制御できる唯がこの場にいてくれて良かった……。











*    *    *









――だが、悪夢はなかなか終わらなかった。

プロデューサー、たいへんです


楓が呼びに来たので、僕は休憩室へと急いだ。

だいどころに、へんなロボットが立っています


確かにつぎはぎだらけのロボットが立っていた。

ぎこちなく、カクカクと動いている。

とてもこわいです

千乃

あ、プロデューサー、見て見て?


どうやらあの怪しげなロボットは、リモコンを持って千乃が操作しているらしい。

千乃

千乃が作ってみたんだよ。プロデューサーをモデルにしたんだ

プロデューサー

あれ僕なの!?

千乃

つかささんが喜んでくれるからね? はりきっちゃったんだぁ

つかさ

千乃さん素晴らしいです! 鼻血を噴いてしまいそうですっ!


確かにつかさは大喜びだった。

千乃

えへへへへへ。そう、そう?

千乃

ドヤァ


そして千乃はドヤ顔だ。

うごきがきもいです

なんか地味に傷ついた。











*    *    *









プロデューサー、たいへんです

プロデューサー

……もしかして、また千乃とつかさ?

楓に呼ばれて行ってみると、レッスン場に彫像ができていた。

しかもヤケにリアルな僕の。

なんでいつも僕なの。

半裸とかやめてほしいんだけど……。

千乃

あ、プロデューサー、見て見て?

千乃

つかささんが喜んでくれるからね? 千乃、はりきって作っちゃったんだぁ

千乃

今まで生きてきた中で、一番精魂込めたんだ

千乃

三日寝ないで、芸術魂を燃やして作った

千乃

すごくがんばったぁ……

ふぅ、と達成感で、汗をぬぐう千乃。

いや、アイドル活動を頑張ろうよ。

つかさ

千乃さんはすごいのです! 本当に本当に、すごいのですー!


じたばたと全身で感動を現すつかさ。

たまに目がうごきます。とてもこわいです

千乃

夜になると光るよ?

千乃

でもなんでだろ? みんなプロデューサーの彫像見て、おびえて逃げちゃうんだ?


なんか僕が恐怖の対象になってるみたいだからやめてほしい。

ああ、頭が痛い……。

つかさ

千乃さんは、私にすごい世界をたくさんたくさん見せてくれますっ

つかさ

私、そんな千乃さんが大好きです!

千乃

えへへへへ。千乃もね? つかささんがだーいすき

千乃

これからも、たくさん色々作っちゃうね

千乃

だからいっぱい、褒めて褒めて?

つかさ

はい!褒めまくりますっ

プロデューサー

……。うん、二人とも、遊ぶのは、ほどほどにね?

それでも。

幸せそうな笑顔の二人を見ていると、なかなか止められないんだよなぁ。

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