ある日の事務所で。
休憩ムードの、のどかな昼下がり。
つかさと千乃が、一緒にチャカチャカとポータブルゲームをやっている。
二人は、ピッタリと身を寄せ合ってソファーに座っている。
プロデューサーの僕はゲームのやりすぎを注意しなければならないかもしれないが、仲が良い様は見ていてほっこりする光景だ。
はー、ビーハン楽しかったですねー! 千乃さんとの冒険は、毎回すごく素晴らしいのです!
えへへ。ちょっと休憩しよっか? くたくた
はいっ……ところで千乃さん
なんだろ、つかささん?
わたくしに色々な新しいものを教えてくれる千乃さんなら、分かるかもしれません
わたくし、最近気になっているのですが――
恋とは、具体的にどういった感情なのでしょう?
恋?
千乃は首をかしげているだけだが、僕は椅子から転げ落ちそうだった。
恋って……!
年頃とはいえ、アイドルをやっている女の子には、あまり踏み込んでほしくないところではある……!
はい。わたくし、都会に来てたくさんの新しいものに触れてきました
テレビやゲーム、漫画などで様々な恋愛ドラマといったものが出てくるのですが、具体的なかたちがあるわけでもなく
わたくしにはよく分からなくて……
分からなければ、伝えることもできません
言われてみたら、具体的な形はないよね
むむむー、はーと?どきどき?むずむず?きゅんきゅん?
……千乃にもよく分かんないかなぁ
……つかさの相談相手が千乃で良かった。
そばで聞き耳を立ててしないながら、そっと胸を撫で下ろす。
これでこの話は終わってくれるだろう。
そうですか……
んー、じゃあつかささん、一緒に恋を探しにいこ?
千乃もすごく気になってきちゃった
……探しにいく?
わぁ! それは素敵です! 素敵です!
え?
なんでつかさはそんなテンション上がってるの?
えへへ。じゃあねじゃあね、千乃と一緒に恋を探す冒険にしゅっぱぁつ
二人は手を取り合って、立ち上がった。
千乃さんと冒険なのです!
とってもわくわくします!
……つかさの相談相手が千乃では良くなかった。
* * *
つかささん、大きな声を出しちゃダメだよ?
了解なのです!こっそり、こっそりですね……!
つかさと千乃が、少し離れて僕についてきている。
恋を探す冒険と言っていたけれど、何をするつもりだろう……。
これは、もしかして僕を監視するつもりなのだろうか。
何故僕がターゲットなんだ。
たまたま近くにいたからか。
二人は隠れているつもりなのかもしれないけど、丸見えだ。ここは気付かないふりをしていた方がいいんだろうか……。
あ、プロさん! おつかれさま!
休憩室に足を運ぶと、ひかりが一人、自主勉強をしていた。
ひかりは勉強中かな? えらいね。何か飲み物でも入れようか
ええっ! そんなそんな、プロさんに入れてもらうの悪いよー
飲み物は持参してきてるから大丈夫っ
ひかりが机の上に二リットルのペットボトルを、どんと置いた。
とても用意がいい。
そっか、なら僕の分だけお茶いれようかな
プロさん、喉渇いてるなら、これ飲んでもいいよ!
と、勢いよく言った後、すぐに気まずそうな顔になった。
あ、でもこれ私、さっき口つけちゃったんだった……
さすがに恥ずかしいや……へへへー
はにかんだ笑みを浮かべるひかり。
あれは恋かもしれない
背後からこっそりと目を光らせている千乃が放った言葉を、僕は聞き逃さなかった。
あれが恋……!?
つかさの驚いたような声も聞こえてくる。
ペットボトルが恋のかたち……!
違うと思う。
* * *
ダンスレッスン上りの空子に、仕事の打ち合わせの為に会いにいった。
えへへ、プロデューサー! おつかれさまです!
元気な笑顔で駆け寄ってきた空子だったが。
――わぁっ
激しいダンスレッスンの後だ。疲労で足がもつれてしまったらしい。
転んでしまいそうになるのを、僕は慌ててガシッと受け止めた。
だ、大丈夫だったかな、空子?
胸の中にいる空子に聞いてみると、ぐいーと押されて身体を離されてしまった。
めずらしく、空子の顔が真っ赤だ。
ご、ごめんなさいプロデューサー!
い、いやいや謝ることじゃないよ。怪我はなかったかな
はい、大丈夫です
プロデューサーに受け止めてもらえなかったら、危なかったです……
え、えへへ、助けてくれてありがとうございます!
空子はまだ動転しているみたいで頬が真っ赤だし、なんだか申し訳ない気持ちになった。
あれは恋かもしれない
千乃、まだいたのか……!
あれが恋……!?
ということは、うん、つかさもまだついてきてるよね。
むぅ……。ダンスレッスンが恋のかたち……
だから違うと思う。
* * *
ボイストレーニング上りのミユに、仕事の話があったので会いにいった。
あれぇ? プロデューサー、どうしたん?
おつかれさま、ミユ。ちょっと用事があってね
またまたぁ、自分に会いたかったんやろ?
とろけるような笑顔で、ミユが言ってくる。
プロデューサーは、自分の顔を一日でも見れんと、寂しくなってしまうんやなぁ
ほんま、自分ナシでは生きられないんやね
調子づいて言ってくるミユに、苦笑が漏れた。
そうだね。僕はミユなしでは生きられないよ
ミユに乗って言ってみると、意外なことに目を見開いてきた。
なっ、い、いややぁ……!
冗談やったのに、そんな本気で来られたら恥ずかしいやん……! あかんわもう~
何故かすごい笑顔でバシバシと殴られてしまった。
あれは恋かもしれない
うん、もう流れ的にいること知ってた。
あれが恋……!?
つかさもいい加減、驚愕するのやめようね。
む、むむ、むぅ……プロデューサーをばしばし殴るのが、恋……
そんな痛い恋は嫌だ。
* * *
色々すませて事務所に戻ってくると、つかさと千乃の二人はすでにソファーに並んで座っていた。
あんなにピッタリとくっついて……仲良しなのはいいことだけど、この二人は寄り合うと何か危険な香りもしなくもない。
くたくた。つかささん、恋がなんなのか分かったかな?
つかさの方は少し元気がないように見える。
千乃さんは、どうだったのでしょう……
んー……千乃にはよく分からなかった、えへへ
はい、わたくしもです……
つかさは答えが見つけられなくて、元気がないのかもしれない。
でも恋の感情に明確な答えなんてないものだし、仕方ないことなのだと思う。
千乃さんとの恋を探す冒険は、楽しくてワクワクするものでした
うん。千乃も楽しかったよ
けれど、わたくしなんだか胸がもやもやしてしまって……答えが見つからないせいなのでしょうか……
元気がないつかさが心配になって、僕は二人のそばに行ってみる。
おつかれさま、つかさ、千乃
あ、プロデューサー
プロデューサー!
つかさがすっくと立ちあがって、僕に歩み寄ってくる。
……えい、えい
おもむろに、胸をぽかぽかと殴られてしまった。
全然力は入ってなかったけれど、頬を膨らませているのでどうやら拗ねているらしい。
プロデューサーのせいです! わたくし全然分からなくなりました……!
でも、変な気持ちになってしまうのです
ペットボトルとかダンスとかバシバシとか、プロデューサーのそういうところを見ていると
なんだか胸がモヤモヤして、もうもうってなるのです!
だから、答えが分からないのはきっとプロデューサーのせいなのです……!
ご、ごめん
なんで僕が謝っているのかは謎だ。
つかさの頭越しに、千乃が目を光らせてこちらを見ていることに気づいた。
あれは恋かもしれない
それはもういいよ……。
実質二本立てであったか…じゃあいいか!
それにしてもこの2人が合わさるとミユを遥かに凌駕するふわふわ空間になるんだなーとても癒されるじゃないか〜はー
わい「アイコネ最高!!」
千乃「あれは恋かもしれない」
とりあえず空子のところ変わってくれプロさん(# ゜Д゜)
なんだよぉ、この猛烈な甘酸っぱい雰囲気はよぉ~(笑)久しぶりにキュンキュンしたよ。
無意識の嫉妬って、こんなにも可愛かったっけ!?つかさだから可愛いのかな。キャラソンに通じるものあるし、楽しめました~。ありがとー。
不定期になってしまうのは悲しいけど次の発表、待ってますね~(^^