黒板の前に佇む私と間木君。




まるで時間が止まったかのような感覚に



襲われていた。








キャー!
教室でプロポーズしてるー!

おー!
まじでやりやがったぞ、
間木のやつ!





周囲の音がフェードインしてきたかと思うと





我に返った私の時間は進み始めていた。







間木

ほ、本当に!?
いいの、美咲さん!





美咲

え!?
あ!?
ええええ!?








まるで阿吽の呼吸の様に。








突然の間木君の告白が





私の心の扉を開ける鍵であったかのように。













私はそのプロポーズの返事をしていた。












やるなぁ~、間木。

間木君、物好きよね。








にわかに色めき立つクラスメート達。









自分のしでかした事の大きさに気づいたのか



間木くんはおどおどしながら、



声をかけてきた。


間木

あ、あの美咲さん……。

美咲

な、何よ?

間木

……まさか美咲さんから
OKを貰えるなんて思っていなくて……。
その……。






この期に及んでおおよそ男らしくない。









なぜこんなヤツの告白を



受け入れてしまったのだろう。








そう思うと自分に無性に腹が立ってきた。





美咲

じょ…冗談に決まってるでしょ!
からかい返してあげただけよ!






心にもない言葉で



間木君を叱りつけた私。









しかし、クラスメートはむしろ



この反応を待っていたようだった。



出た!
美咲さま!

うはっ!
あの高飛車な態度が
たまんねーぜ!








美咲

もー!
なんなのよ、このクラス!



まるで私の一挙手一投足を


楽しむかのように、


クラスメートはリアクションをしてくる。





そんな私を見てか、


間木君は小声で話しかけてきた。


間木

ゴメン、ちょっと変なことになっちゃったけど……。

美咲

もーいいわよ、いまさら。
あやまるくらいだったら、
最初からこんなところで言わないでよ。

間木

ご、ごめん。
でも……。

美咲

ほら、またそうやって
あやまって……。

間木

でも、僕は本気だよ。

美咲

〜〜〜っ!!

美咲

もう、知らない!







プロポーズの場所を後にし、



次の授業の準備をするため



自席へと戻った私。






好奇心旺盛なクラスメート達は



ここぞとばかりに集まってくる。

ねぇねぇ、美咲ぃ。
アンタ、本気で受ける気ぃ?

ゼッタイ男子に誂われてるだけだよ?

美咲

カチン!

美咲

なにも……。
何も知らないくせに。

美咲

アンタたちまでしつこいわね。

美咲

言ったでしょ?
からかい返しただけ、だって。

でも……美咲……。
まんざらじゃなさそうだったじゃない?

美咲

な……何言ってるのよ!

ほーら、赤くなった!

美咲

なななななってない!

クスクス……

美咲

アンタたちも馬鹿なこと言ってないで、さっさと次の授業の準備しなさいよ。






失礼なクラスメート達をあしらった私は





足音を立てながら理科室へと向かう。




























うひぃ……。
美咲さま、お怒りだぁ……。




……ったく。
相変わらずウザいわぁ、美咲って
























美咲

まさか、休み時間にあんな事を言ってくるなんて……。

美咲

そりゃあさ、嬉しかったよ。
『あの時』からずっと待ってた事だし。

美咲

私も学校ってことを忘れて
思わず返事しちゃったけどさ……

美咲

みんなの前でとか、
ありえなくない!?

美咲

返事しちゃう
私なんか
もっと
ありえなくない!?










クラスメートは



誂われてるだけ、と言ってたけど、



私は知っている。








間木くんが本心でそう思ってくれている事を。






ずっと前から変わっていない事を。



























いつかの約束

つづく

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