Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未來視の未来

2


   


   


   

カノン

クーデターを起こそうとしている奴らがいる。王に国を追われた者たちだ。
何かを計画している

カノン

これは……火か。
火……いや、炎が視える。
事前準備を完璧に整えてから一気に攻め込んでくるつもりだ

  淡々と言葉を紡ぎ出し、カノンは用意された紅茶に口を付けた。

 冷たいアップルティーは、この時代王家にしか渡らない贅沢なものだった。


 りんごの香りは、カノンの心を落ち着けさせた。


 そんなカノンを眺めて、コールは笑みを浮かべていた。


 バルコニーから場所を移し、2人は人払いされた王室にいた。

 面会用の部屋、休息用の部屋、衣裳部屋、寝室……と、今のところ王室は4室用意されている。コール王の我侭により更に増えそうであるが……。

 そのうちのひとつ、紺をベースに整えられている1番落ち着いた雰囲気の休息用の部屋で、2人は向き合っていた。

 今2人が座っている紺色の上質なソファーの前には、低めのガラステーブルが置かれている。その上には、赤い花。

  カノンが顔を上げると、壁にコール王の大きな肖像画が飾られているのが見えた。プロの絵師に描かせた美化100%のこの肖像画を、コール王はとても気に入っている。

 ここまで自分のことが好きな人間が他にいるだろうか……。

 コール王の度を越えたナルシストっぷりにも、いい加減に慣れた。

コール

それで? 私はどうしたらいい?

  カノンの予知した未来にさして驚きはせず、コール王は先を促した。

 長い足を組み、右手で優雅にワイングラスを傾けているが、中身はカノンと同じアップルティーである。

 たれ長の目は薔薇を愛でるかのように細められ、その先には、現実離れした美貌のカノンがいた。

カノン

分からない

 カノンの答えは素気なかった。

カノン

そういう未来を視た。
それだけだ。
この城が炎に包まれる。コール王は死ぬ。
国が滅びる

  感情の篭らない声で、まるで機械のように話すカノン。

 本人を目の前にして残酷なことを言えるのも、カノンだからだ。

 もし、カノン以外の人がコール王に向かって同じようなことを言えば、即死刑である。

 カノンだから許される無礼であるが、カノンは無礼を言っているつもりはなく、ただ真実を話しているにすぎなかった。

 カノンという存在。カノンの全て、何もかもが、地に足の着かない、現実離れしたようなもの。

 今に始まったことではないが、時々、無性に手の届かない存在のように思う。

 だからこそ、こうして自分の手の届く場所に置いている。


 カノンが離れていくのが怖いわけではない。一番怖いのは、本物の幻だ。

コール

私が死んだら、どうする?

 どうとでもとれる物言いで、コールは聞いた。どうして自分がこんなことを聞くのかは分からなかった。

カノン

……どうもしない

  カノンの即答。


 本当は戸惑っていた。

 自分の視た未来。

 変えることが出来ない未来。

カノン

どうしてこんな未来が起こるんだ。

 自分を信じたくなかった。

 しかし、今まで視てきた全てが本当のことだったから、信じざるを得なかった。

コール

ふふ……貴女らしい

 コールは、少しだけ悲しい声を出して見せた。

 そして、芝居がかった動作で両手を広げた。

 それから、国民に見せる自信に満ちた表情を、カノンにも向けた。

コール

カノン、貴女の視た未来、心しておくよ。また未来が変わったら教えてくれ。
貴女のような美女ならいつでも歓迎だ

 その言葉には、偽りはなかった。




























側近

あんな女の言うことを信じるんですか?

 カノンが帰り、コール王がひとりで寛いでいると、側近が近寄ってきた。

 コール王が唯一本音をぶつけられる相手だった。気の知れた関係で、何かあればいつも横にいるのが、この白髪の老人だった。

 神経質そうな顔は、ひどく疲れているようにみえた。

コール

昔、私が王になる未来をカノンは言い当てた。
本当だろうとまぐれだろうと、それは十分に価値がある

側近

それはそうかもしれません。ですが、未来視なんてただのホラ吹きです

コール

そうかもね。私もカノンの言う未来を信じてなんかいないさ。
私が死ぬなんて馬鹿らしい

 薔薇を愛でるような瞳が、一瞬、鋭くなる。

コール

この美しくて人望あるコール王は永遠に民に愛される運命なのさ

側近

では、どうしてホラ吹きなんぞを手元に置くんです?

コール

美しいからさ

 どこかうっとりとした表情で、王がぼやく。

 側近は呆れて、思わず出そうになったため息を飲み込んだ。コール王が勧めたティーを、側近は断る。

 側近が言いたいことを読み取って、コール王は言った。

コール

まぁ、いらなくなったら殺すさ

  その目は、笑っていなかった。



 コール王のこの無情さを、知っている人は知っていた。




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