すまぬ、ミル。賢誠が連れていかれた

……君が居ながら連れていかれるなんて、どういうこと……?

なんじゃ。まだ寝ておったのか。空間操作師じゃ。連行されそうになったイツキに手を伸ばした賢誠も連れ込まれてしまったのだ

全く、あの子供は馬鹿なんだから。

あぁー……布団の中が良いー……なんで僕があんな子供に振り回されなくちゃいけないの?

あの子供め、どうやって落とし前つけてもらおうか

一生涯、森に監禁するのはどうじゃ?

それは君達が楽しくて名案だねぇ?

僕が被害被るだけだよ、却下









 持石は、無造作に投げ捨てていたはずの洋服は、ハンガーに引っ掛かっていることに気づいて手を伸ばす。これは朝顔が頼んで賢誠に作画を頼んだ衣装。



 濃紺の洋服は、金糸で縁取りされた逸品。


 ワイシャツにレースがあしらわれている。島の外に住んでいた頃、着たことがあったヒダつきの白いワイシャツが先に飛んできて、着物を脱ぎ捨てた上半身に巻き付く。



 それからズボンが飛んできて、ジャケットを纏う。





サンジェルマン伯爵の復活じゃのぅ? あの頃のように、バッタバッタと事件を解決するんじゃな


 

もうサンジェルマン伯爵は死にましたー

太陽の宝石を持つ男が笑わせる

あの頃はノリで生きてたんだよ。その名前で呼ぶの止めてくれない?







 着物を脱ぎ捨てて、袖を通す。打ち捨てられた着物は独りでに宙へ浮かび上がるとハンガーに自ら引っ掛かる。


 持石は、大きなあくびをかいて、寝室を出れば部屋でくつろいでいた妖精達が目をキラリと輝かせた。






出掛けるの、ミル? それなら、レシィもついていって良い?

レシィはダメ。君は見えない人間にもちょっと匂うから。

鈴蘭、龍爪、来てくれる?






 子供が、ぶーっと頬を膨らませる。そのそばで、座っていた白い子供と赤い子供がその姿を成人にまで引き伸ばす。







鈴蘭

御意

龍爪

分かった





レイは賢誠を探して。朝顔にはこっちから連絡入れておくから

出不精がやる気になっておる。

あぁ、きっとサトミがこんな目に遭ってるのは出不精が家なんか出たからじゃ。

可哀想なサトミ

そんなの関係あるもんか。あの子供が馬鹿なだけだよ。断じて僕は関係ない






 後ろで、鈴蘭の妖精である女性が持石の髪を櫛ですいてもらう。頼んだわけではないが、いつも気を効かせてくれる。今まで少しうねっていた髪が、綺麗に揃う。


 森守の魔術師は、妖精を率いて客室の扉を開く。




さて。悪者狩りでも始めようか







 後ろに白と赤の妖精を引き連れて、金糸のような髪が日の光を浴びて煌めきながら揺れる……ーー。




あぁ、ミル。靴を履き忘れるでないぞ?

あ。忘れてた
























 世話係として置いていた藤堂美佐子が客席に戻ってくるなり三文字幸乃へ袖に忍ばせておいた手紙を差し出した。



 その手紙の中は、雪村齋が拐われたこと。魔術師部隊を動かすために、藤堂清貞の上司に当たる人物と、魔術師長へ一筆たしなめてほしい、とのことだった。


 人形のように無表情な息子は、手紙の内容すら目視せずただ一言。





予知通りですね。幸乃様

……








 人形の如く真正面を向たまま動かず、人形のようにそう言った。



 三文字幸乃は手紙を美佐子へ返し、動かない息子の腰に差しておいた小太刀を鞘ごと引き抜く。





お手洗いです。どうぞ、道を開けてください









 息子は不気味に試合を見下ろしたまま言った。興味など無いと、直接言わないにも態度で示すかのごとく。




 皇女が立ち上がると、観客達は慌てたように道を開ける。それは砂浜に押し寄せた波が、一気に引くかのような様だ。


 桜吹雪の舞う赤い着物を翻し、その後ろを護衛が二人、静かについていく。





 その手に、黒い小太刀の鞘を握って。


 幸乃見たさに集まっていた客達は、ひ、とその顔を蒼白させた。

 幸乃を見に来た観客のうちに日輪で非番の保安部隊が居た。彼もまた、その三文字幸乃の顔を見て、喉が引きつれた。



 彼女が通りすぎ、遠ざかってからポツリと喉から彼女を間近で見た感想を漏らす。






武人みたいな人だ……ーー






 その気迫、その隙の無い動き。


 何もかもが武術に精通した人間が纏っているものに、程近かった。




























 眠いから寝る、と現実逃避するように横になった子供は数秒のうちに夢の彼方へ飛んでいった。


 あの緊張感のなさは、肝が座っているからなのか、子供ゆえか。






 齋は何をしても起きなかった賢誠に、せめて体が痛くならないようにと膝枕。小さな賢誠には高い枕のように思えるが、それでも無いよりはマシだ。






 しかし、賢誠はたったの数分で飛び起きた。


 やはり緊張があって上手く寝付けなかったのか……ーーそんな不安をよそに、賢誠は再び肉体強化を自身に施して鉄格子の隙間に頭を突っ込んだ。その隙間から、ぐにーっと腕を通す。




 それではさっきと同じだ。肩が引っ掛かって抜けなくなる……ーーと諦めの悪い勇猛果敢な弟に呆れそうになった時、ごきん、と賢誠の体から嫌な音がした。


 身体の骨が、あらぬ方向にズレる。それがわずかな隙間を潜り抜けた。最大の難関である両肩が、鉄格子の向こうに抜けた。それから身体の骨格を戻すと、賢誠は鉄格子をうんしょ、うんしょと押して着実に下半身を抜いていく……そして、最後は重力に引っ張られて、顔面から突っ込むように賢誠は鉄格子の隙間をズルンと落ちた。




 齋の、開いた口が塞がらない。





お、おおお、お前! そんなことやって大丈夫なのか!?







 ようやく口から言葉を発した齋の声に反応するかのように、むくりと起き上がった子供は猛烈な顔面の痛みに耐えながら涙目になっていた。それも、目尻に大粒の涙だ。小刻みに震えて、我慢してるんだ! と全身で訴えていた。



 さすがの齋も、ぎょっとしてワタワタする。


 行動に驚いてではない。賢誠が泣き出すのではないかという、不安だ。下手にぎゃあぎゃあ泣いて、日向の村長たる和泉がやって来たら賢誠がどうなるか分かったものではない。





す、すまない。大丈夫なわけがないな……み、見てないことにしてやるから、泣いて大丈夫だぞ








 静かに泣くように齋が言うと、ブルブル震えていた子供はこちらに背を向けてグスグス泣き始めた。声を圧し殺し、膝を抱えて泣いている。



 本当に、この不安な状況でよく頑張っている。知らぬ敵に薄暗い部屋に連れ込まれて、逃げる算段を見つけ出したは良いが、痛い思いをした……ーー殆ど、賢誠自身が原因だが。





 だが、齋も無慈悲ではない。無事に救出された暁には屋台でたくさんお菓子を買ってやろうと心に誓った。





























 ルームフェルは織田信長が見える位置に立っていた。


 目と鼻の先。できるだけ目立たないように、髪は帽子で隠し、服は庶民に馴染むように。






 朝顔はそれを実体化していない姿で監視。すでに、賢誠が空間操作師に連れ去られたことは聞いている。朝顔はとにかくルームフェル・ヴァールハイトの監視を持石から命ぜられた。



 そこへ現れた一般人が、ルームフェルの腰の辺りにクナイを押し付ける。





まさか、空間操作師と手を組んでいるとはな

何のことだ







 朝顔は見えないのを良いことに、その人物の顔をまじまじと観察する。昨日、ルームフェルに接触した忍の一人だ。顔は昨日のうちにしっかりと観察しておいたから間違いない。



 とぼけても無駄だ、と忍びはさらにクナイを食い込ませる。





雪村齋をどこへ連れ去った?

知らんと言っている。そもそも、俺は単身だ

俺達の情報網を舐めるな。

もう既に、日輪の保安部隊は救出のために魔術師部隊を動かす準備を始めているぞ

そうか。なら雪村齋は助けてもらっておけ

貴様、我らと敵対するつもりか?

織田信長を釣るには、あの小娘は必須だ

俺には不要だ。居らずとも殺すに困らない






 ルームフェルは、ただ単純にそう無感情に吐き捨てる。


 しかし、忍びはぐい、と一歩踏み込む。



どうしても吐かないというわけか

再三言っている。空間操作師とは組んでいない









 その言葉に、忍の男はクナイをしまって数歩引く。


 鋭くルームフェルを睨みつける。





今の言葉、しかと聞き届けた

お前達がその気なら依頼料はいただいていくが、今回はこれで手を引く。

貴様らで勝手にやれ






 ルームフェルは壁に預けていた背を浮かせ、くるりと踵を返した。


 朝顔は忍びとルームフェルを交互に見やって、暗殺依頼を受けておきながら蹴り飛ばしたルームフェルのあとを追いかけた。





朝顔

おい、持石。ルームフェルの奴も、忍者の方も空間操作師に心当たり無いみたいだぞ

そう。

じゃあ、織田信長を暗殺したい依頼主が二人いたってことだね。

そんで、空間操作師使ってる方が何枚も上手で、その男と忍者チームは後手ばっかりの無様極まりない状況







 頭に響いてくる持石の声はつまらなさそうだ。


 朝顔は続いて、ルームフェルが暗殺の方向性が食い違うということで帰るつもりでいることも伝える。切り上げて賢誠の救出へ行くか……ーー持石の答えは、引き続きルームフェルを監視するように言う。


 せめて、ルームフェルが日輪へ出ていくまで。






それに、朝顔が心配することもないよ。

あの子供、見つかったから

朝顔

そうか。どこに居た?

大会会場の地下倉庫。その中に運ばれた鉄製の牢屋の中





 つまらなさそうな持石の声に弾かれるように、朝顔は見下ろした。



 見えるのはもちろん、砂利を埋めて固めたような床。





 朝顔はほっと一息ついた。























 よし、あとは鍵を開けて齋と脱出するだけだ! と、痛みから完全回復した賢誠は天之御中主に言われた通り、鍵穴を覗き込む。だが、部屋が薄暗いので鍵の中など真っ黒で見えなかった。




 これじゃあ、鍵が開けられない……ーーそんな疑念をぶっとばすかのように、突然、ガチャン! と猛烈な勢いで解錠した。


 驚いている間に、ぎぃぃ、と軋んだ音を立てて扉が開いてしまった。


 あんまりにも驚きすぎて、賢誠は興奮せずにはいられなかった。





うぉおおお!? 天之御中主様、どうやって開けたの、コレ!?

あ、あめのみなかぬし……?

神様です!





 自信満々に言って、賢誠は室内を改めて見回す。



 どこかの倉庫のようだ。段ボール箱の山やら、折り畳まれた椅子がたくさん並んでいたり、よく分からない機材もたくさんある。





ここ何処だろ……

サトミ。お前、こんなところに居たのか






 すると、建物の壁から通り抜けてきたレイがフワリと緑の髪を揺らして笑った。




ねぇ、レイさん。ここ、どこ?

闘技場の地下倉庫じゃ。関係者以外立ち入り禁止で中には入れぬようになっておる。まぁ、空間操作師には無意味じゃろうが






 ちょっと待っておれ、とレイは空気に向かって話し出す。お前がぐぅたらしているから賢誠はもう自力で檻から脱出したぞ、とケラケラ笑い始めた。




 そこへ檻を出てきた齋が誰と話しているのかと会話になる。



 妖精だと言えば齋は魔術師としての才がないから自分には見えないと苦笑した。




 会話を終えたレイが、賢誠に再び檻の中で待っているように言った。せっかく出てきたのに、とブー垂れたがこの大会会場の内部を完全に把握しているわけではない。抜け出しているのがバレれば賢誠の方は確実に始末されると脅され、ルートを見つけてくるまで檻の中で待機となった。



 レイは壁をすり抜けて行く。


 賢誠は唇を尖らせながら齋に事情を説明すると、彼女もやはり戻った方が良いと言った。


 こういう時、異世界転生した人間は構わずバッタバッタ敵をなぎ倒していくだろうに、と不満に思う。





お前はすごいな。妖精と契約してるのか?

いいえ。契約主さんが別にいるんですけど、その人の妖精さんが助けに来てくれているんです

そうなのか。お前は本当に良い魔術師になれそうだな





 齋に頭を撫でられて、賢誠だって悪い気はしない。


 頭を撫でてもらうなら野郎よりも断然、可愛い子が良い……ーー。





 途端、天井から明るい光が落ちてきた。


 賢誠達はその明るさに目を細め、見上げる。天井の付近に浮いている紫色の輪からこぼれてきているのだ。穴が突然、音もなく空くわけがない……ーーそこへ、人影が一つ落ちてきた。





 黒髪を靡かせ、赤い桜吹雪の着物がばさりと翻る。


 その片手に、漆黒の短刀。








 その姿は紛れもなく、賢誠達が一昨日に知り合ったばかりの……晴渡国が皇女。





……

三文字幸乃様!?







 かつ、と片足から降りた下駄が、軽い音をたてる。


 穴から降り注ぐ光を神々しく浴び、皇女は凛とした瞳を賢誠達へ向けるなり皇女とは思えぬような、したり顔を浮かべた。



























 藤堂孝臣は席を立った織田信長を見上げて、それに倣う。


 ついてこようとする護衛に一人で大丈夫だと言って人を振り払っていく中、孝臣は静かについていく。





藤堂清貞の息子。お前も来なくて良い

私も手洗いなのです。ご一緒させてください






 織田は、しばらく清貞を眺めていたが踵を返して手洗いへ向かう。



 そのあとに、孝臣は続いた。



 道行く人に集られ、手洗いまで普段なら数秒で行けるところを数分もかかって中へ入った。さすがに、手洗いの中までついてくる人はいなかった。






 孝臣の目は、有機物を透視してしまう。


 その筋肉繊維さえも細かく。


 妖精だとなぜか中が空洞に見える。それがどうしてなのかは、よく分かっていない。

 孝臣が人間として肌を纏っている状態をみれるのはカメラや鏡に写っている姿だけだ。無機物に映っているものであれば、透けて見えることはない。

 だから、この現状がおかしいのである。
 





あなた、誰ですか






 孝臣は尋ねた……ーーこの目で直接見ても、肌を纏っている織田信長に。


 いつもなら肌が透けて筋肉繊維が見えていなければおかしいはずの織田信長に。





 彼は、孝臣の視界で透けずに目の中に映りこんでいたのだ。



 織田信長を警護していた人間だってちゃんと服を纏った人体模型だった。




 織田信長を目当てに集まってきていた人達も人体模型だった。


 でも織田信長当人だけは、普通の人間だったのだ。



 織田信長は、目を細めて孝臣を見据える。





俺が、織田信長以外の誰に見えるという?

変身魔法で織田信長になり代わっている誰か











 孝臣は真正面から切ってかかる。






ただの医者ではないみてぇだな

いえ。本当にただの医者です。
魔術は使えませんから。

それでも視えるんです。
ただそれだけです。

本物の織田信長候がご無事でいらっしゃるかだけ、お聞かせ願えませんか?







 織田信長は腕を組むと、その全身が橙色に包まれる……ーーそして、その中から現れたのは……ーー。





狼、人間?

おうよ。樹神仁のライカンスロープだ






 樹神仁と言っても、誰かわかんねぇか、と笑った。


 その頭蓋が人間の形ではない。明らかに動物だ。それに着物の隙間から出てきている筋肉繊維が完全に人間とは異なっていた。


 そんな狼人間が、なんで織田信長に成り済ましていたのか、甚だ疑問でしかない。






えっと、織田信長候は何処にいらっしゃるんですか?

アイツか? あいつなら、真正面の観客席に座ってたろ







 にやりと楽しげに笑う狼人間。


 真正面に座ってた? 真正面と言えば、三文字幸乃とその息子が座っている場所……ーーまさか、と孝臣は目を瞬かせる。





幸乃様に化けて座ってたのか!?

あぁ。まぁ、王子は本物だけどな





 皇女いわく、これが最善なんだと狼人間はカラカラ笑って、再び橙色の光を纏って織田信長の姿に戻った。



確か、お前だって雅って子供と一緒に日向に行ってるのぐらい知ってるだろ?

お前の家に転がり込んでるって聞いてるぜ。んでもって、皇女サマは調査で日向にいるんだよ。ソロソロ終わって戻ってくるだろうけどな

















無事か? 俺の花嫁

はい?

へ!? もしかして、織田さん!?

は!?





 皇女はかったるそうに『女は楽じゃないな』と首をコキコキ鳴らすと、袖口から小瓶を取り出して飲み干した。


 瞬く間に、その姿は橙色の光に包まれて桜吹雪の十二単を纏うにはあまりにも不格好な筋肉質の男へと変わった。上に着ていた着物を脱ぎ捨てれば、中から現れたのは平民が着ていそうな質素たる着物一枚。その手に握っているのは、短刀。




そうか……あの皇女め。やってくれたな







 部屋の中にその姿を現わした和泉に、織田信長はふん、と鼻をならして向かい合った。






全くだ。この俺に女装させる奴は生涯あの女だけだろうな






 『二度と着るか、こんなクソ重たい着物』と、借り物であろう十二単を蹴っ飛した。



 齋は、今すぐにでも織田信長を蹴っ飛ばしたい。膝裏に見舞ってやったら、かくんと折れるだろうか、やってみたい。


 織田は部屋の出入り口付近へ短刀を投げ飛ばす。それは光を帯びて、人の姿に変えると地下倉庫内部の明かりをつけた。ドアの付近に立っていたのは、薬研藤四郎だ。


 賢誠が、ぎょっと目を丸くする。




え!?

薬研さんって、付喪神だったんですか!?

じゃあ薬研藤四郎さんは、初代織田信長候の小太刀!?

……やっぱり実況席で武器解説していたのはお前で間違いないか、赤石賢誠

じゃあじゃあ、宗左三文字さんとへし切り長谷部さんもいらっしゃるんですか!?

誰から聞いた?

天之御中主神様はいっぱいイロイロ教えてくれるんですー






 賢誠が笑顔で織田の問いに答えた。



 齋には何が何だかサッパリなんだが、ジローっと賢誠を見下ろしていた織田は真正面の和泉へと視線を戻した。




 織田信長の手に、真っ赤な光が伸びる。それは短いままに赤い光を炎のように燃え散らせた。



 その手に握られているのは……ーー先程、握っていた黒い小太刀。それは、付喪神である薬研藤四郎と全く同じ形状、そして装飾の小太刀だった。





織田さんの人具って、薬研藤四郎なんですか!?

だったらどうした?

じゃあもしかして、織田さんは初代織田信長の生まれ変わり!? 織田信長が一番使ってたのは、たしか薬研藤四郎だったはずです!

特に気に入ってたのは、宗左三文字みたいですけど…ーーー







 期待に目をキラキラさせた賢誠は織田からギロリと睨まれ、ビクッと身体を震わせた。


 そのあと、齋の背後へと逃走。

 こわい、とガクガク震えた。




行くぞ、薬研!

あぁ!








 織田と薬研は和泉へ向かって走り出す。先を織田が、そのあとに薬研が続く。



 はぁ、と疲れたように、和泉が溜め息を溢した。




貴様ら、空間操作師に勝てると思っているのか

勝たねば現状を切り開けん!







 正面の織田の背から、もとの小太刀に戻った薬研が飛び出し、和泉の元へ真っ直ぐ飛翔する。きらり、と白銀の刃に一筋の流れ星が煌めいた。もう少しで、和泉へ届くーー。

















 途端に、齋の視界に紫色の輪が広がった。



 真正面の風景が紫色の線に区切られて変わる。その中に、背を見送ったはずの織田信長が驚きに顔を歪めた表情が見えた。

















 体当たりと共に、腹部への鋭い衝撃と灼熱。


 腹より下の辺りから全身に電撃が駆け抜ける。






 齋は自身の腹を見下ろした。


 深々と刺さっているのは、黒い小太刀。



























齋!?





 




 齋は、グラリと横転した。



 乱れた髪がバサリと床に黒い扇子を開く。





 腹部から溢れる、赤い水。




 齋は目を丸くして固まってしまっている、刀弥の弟を見上げて……――。




























微笑みかけていた。


pagetop