この世界の真ん中が
何処にあるのか
知っているやつなんて
いるのだろうか。

いつかの兄の言葉が
耳の奥に蘇る。

ああ、優しい兄さん。

大好きな、兄さん。

何故、あなたまで。

あんな、ケモノに。

本当は分かっている。

きっと優しくて、
美しすぎた兄の罰なんだって。

美しきは、罪。

それはヒトを狂わせる。

それに罪悪感を抱いてしまう、
そんな優しい兄だから。

いっそ開き直っていれば
良かったんだ……

そしたら、兄さんは……!

でも本当は。

本当はね。

お気に入りの猫耳パーカーを深く深く被って武装する。ここには味方はいない。誰も僕の孤独を分からない。
わかってくれるとすれば、それは。

っ!

兄さんっ!

桃色のカーディガンをきつく体に巻き付けるようにして着ている人間なんて、ここでも外でも、きっと兄だけだ。


なんだ。お前か。

なんだってなんだよ。
……兄さん、嬉しくないの。

嬉しい。
チェハニ。おはよう。

おはよう。ビスティ兄さん。

体の弱い兄さんはいつも寒そうで、特にこんな山奥では熱もすぐに逃げてしまうだろう。
鬱蒼とした森になど光は射さない。

兄さんは朝の散歩に出ていたようだ。
見つけられて良かった。長居は兄さんに毒だ。
早めに暖かいストーブの前へ連れて帰らないと。

……レルフは?

……知らない。
あんな嘘つきなんか。

チェハニ。だめ。
レルフもいいこ、だよ。

……兄さんがそう言うなら。

ビスティ、レルフ、チェハニ。
僕達は3人兄弟だ。この世界で3人だけの血の繋がった人間だ。
でも僕はレルフ兄さんが好きじゃない。
あいつは嘘ばかりつくから。いつもへらへらして、こちらの気持ちを考えてくれないから。

だから、ビスティ兄さんが。

チェハニ?
お腹、痛い?

あっ、ううん、ごめん。
大丈夫。
……さ、朝食を食べに戻らなきゃ。

パンケーキ。食べたい。

じゃあ頼んでみようよ。
パンケーキにして欲しいって。

兄さんは、笑わない。
悲しくても泣かない。
そうしないといけないから。

いつもぼんやりとしている瞳には星が宿っていて、夢の中を彷徨っているようで。
前を歩く紺色の髪が揺れる。

頼りなく、左右に揺れる兄の歩みに逆らえず、右に、左に、髪が跳ねる。

兄さんがこんな風になったのは、
あいつのせいなんだ。

レルフ兄さん。
あんたのせいなんだ……!

僕の愛しい兄を破壊したのも、また兄で。
本当は僕は、どちらの兄も大好きだった。

でももうそれは過去の話だ。

今すぐは無理でも、僕は兄を連れてこの場所から出ていってやるんだ。
僕も兄も、きっとまだ、やり直せる。
少しずつでも、きっと。

そうだよね。兄さん。

信じたい気持ちと裏腹に、嘲笑った兄の声が鼓膜に張り付いているような気がして。

それが僕の選ぶ道を塞いでいるかのように思えた。

不敵な猫、笑顔を棄てる。

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