遭遇
* * *
御二角村立
総合病院
* * *
その医師は院内を駆けずり回っていた。
ど……どう言うことだ?
誰かー!!
返事をしてくれー!
ここも……。
なぜ誰もいない!
広い院内をたった一人で。
患者も……誰一人……
いったい……
いったい
何があったんだぁぁぁ!!!
紗季の家を出て
しばらく行った先にある排水溝。
そのの詰まりはますます酷くなり
そこら中の排水口から泥水が吹き出していた。
ただいま、ばあちゃん。
友美先輩を連れてきたよ。
こんにちわー。
おかしいな……。
裏庭にでも行ったのかな……。
えー……。
囲炉裏に鍋を掛けっぱなしで
出かけるなんて危ないなぁ……。
……それもそうだな。
奥の部屋かな……。
友美先輩、あがって。
お邪魔しまーす。
こっちだよ、友美先輩。
友美を奥の部屋へと案内する那由汰。
紗希の為に用意した傘を
手に握りしめたのを忘れたまま。
老婆の姿を探して、
屋敷内を進む二人。
ばあちゃーん。
その姿を探して声をかけども
返ってくるのは床板の軋む音のみ。
その広い屋敷は
異様なまでの静けさに包まれていた。
那由汰くん、
なんか、寒くない?
え?
なんか鳥肌が立って来ちゃった……。
確かに……寒いというか……。
肌に何かイヤな空気が
纏わりつくような感じだ……。
二人は不穏な空気を感じながらも
老婆のいると思われる奥の部屋へと到達する。
那由汰は閉ざされた障子を開き
中へ足を踏み入れる。
ばあちゃ……
!!!
目の前の光景に
口から出かかっていた言葉を
那由汰は飲み込んだ。
その部屋の真ん中には
大きな黒い霧の塊が揺らめいていた。
ひっ……
しっ!
続いて入ろうとした友美の口から
悲鳴が漏れるも、
那由汰はとっさにその口を手で塞ぐ。
動かないで、友美先輩。
二人は息を殺して動きを止めた。
な……なにあれ……
黒曾の霧……。
いわゆる邪気みたいなモノだ。
!!
ふと那由汰は霧の中に何かの気配を感じた。
あの中に……何かいる……?
座敷部屋の畳の真ん中で
ゆらゆらと揺らぐ黒曾の霧。
目を凝らしてその中を見る。
黒曾の霧の中には
ネズミらしきモノの姿があった。
……うっ……ネズミ?
ネズミらしきモノも
こちらの存在に気づいているらしく
その動きを止めて、
じっとこちらの観察をしている。
と、その時。
開けたままの障子から風が吹き込み
立ち込めていた黒曾の霧を晴らした。
!!!
ヒィッ……
友美は余りの驚きに尻餅をつく。
黒曾の霧が晴れたその場所には
ネズミの姿はなく、
まるでミミズが集まって
獣の形を模したような
名状しがたいモノが
湿った音をさせながらそこに居た。
風が止むと、
すぐさま黒色の霧が立ち込め
その姿を覆い隠す。
霧の中で見えるソレの姿は
先ほどと同じようにネズミの形をしている。
だがしかし……
真の姿を見られたことに
怒りを覚えたのだろうか。
霧の中のネズミは
先程までとは違い、
明らかに敵意を剥き出しにしている。
マズいぞ……。
よりによって、
なんでネズミなんだ?
友美先輩、ゆっくりと下がって。
む……無理……
腰が……抜けて……
尻餅をついたままの友美は
なんとか後ろへ下がろうと
手足を使って後ずさる。
それに呼応するように
ネズミらしきモノが
黒曾の霧を纏いながら
尋常でない勢いで襲いかかって来た。
くそっ!
来るな!
キャー!!
つづく