先程まで雨を降らせていた雨雲は




おぼろ雲へと変わり、陽を遮る。










雨後と言えども




季節外れのまとまった雨。












処理しきれぬ量の雨水は




泥をまとった濁流となり、




未だに排水溝から溢れ続ける。




















まるで、行く先を拒むかのように。

















那由汰

友美先輩、そこ溢れているので気をつけて。

友美

おぉ、凄いなー。
大洪水だ。































消失






























氾濫した排水溝を通り過ぎ、





角を曲がれば紗希の家がもう見える。













二人は紗希の姿を見る事なく




ここまで来てしまった。






那由汰

この先はもう紗希ねえちゃん家だ……。

友美

んー、追いつけなかったねぇ……。
急いで何処かに出かける用事でもあったのかな?

那由汰

追いつけなかったんだろうか?


























角を曲がればそこにいるかもしれない、と



一縷の望みを託して進むも



そこには人影すらなかった。







友美

雨上がりだから、他の人もいないね。

那由汰

家にいるならそれでいい。
ばあちゃんの所へ連れて行くだけだ。









そう思いつつ那由汰は呼び鈴を押す。













はい。







インターホン越しに聞こえる男の声。





那由汰

こんにちは、
蔵護 那由汰です。

お、ちょっと待ってくれ。











玄関の扉が開くと



中からは紗希の父親がいそいそと現れる。


瀧林教授

いらっしゃい、那由汰君に……
お、友美ちゃんじゃないか。

友美

先程はどうも。

瀧林教授

……先程?

那由汰

……?



怪訝そうな顔をする瀧林。




その振る舞いに



那由汰の不安はますます大きくなる。



那由汰

先生、紗希姉ちゃんに
用事があって来たんですが……。

紗希姉ちゃんは?

瀧林教授

紗希ならまだ帰ってきてないが。

那由汰

そんな!?

友美

え……?
さっき、お父さん学校まで迎えに来てましたよね?

瀧林教授

いや?
私は学校になんて行ってないぞ。

那由汰

30分ほど前に、
雨の中を急いで
走って行きましたよね?

瀧林教授

今日はずっと書斎で調べ物をしていたが……。

友美

それじゃ、学校で紗希を迎えに来たお父さんは一体……。

瀧林教授

待ってくれ……
紗希がどうかしたのか?









友美が事の経緯を話すと、




瀧林の表情はみるみるうちに




こわばっていく。







瀧林教授

君らはもう帰りなさい。
……わかったね。






と言うと、



瀧林は那由汰らが来た道へと駆けていく。











那由汰の見送る瀧林の後ろ姿。










先を急いでいたとしても、



それは決して那由汰を



振り切れるようなものではなかった。














那由汰

友美先輩、早くばあちゃんの所へ行こう。

俺は友美先輩を送ったら
すぐに紗希姉ちゃんを探しに行く。

友美

ちょっと待って……。
私にも探させて。





友美は険しい表情で



同行を志願する。







しかし、那由汰は



友美の身を案じて突き放す。



那由汰

ダメだ、友美先輩!
友美先輩も紗希ねえちゃんも
障りがあるかもしれないんだ。

友美

……え?

那由汰

今朝の写真……。
アレには黒曾の霧《こくそのきり》が
写っていた。
関わった紗希ねえちゃんと友美先輩には
その影響がある。

友美

黒曾の……霧……?

那由汰

このままだと友美先輩にも何かあるかもしれない。探すより前にばあちゃんに祓ってもらわないと。

友美

……でも。
私が学校で一緒にいたのに…。
私の写真のせいなのに……。
こんな事になっちゃって……。





らしからぬ友美の気弱な姿。





那由汰は焦りから語気を強める。

那由汰

それなら、なおさらだ!

ばあちゃんに祓って貰ってから
でないと。二人も障りがあったら手に負えない。

友美

……ん。







友美

わかったよ、那由汰くん。
早く行こう。

那由汰

……怒ってゴメン、友美先輩。
急ごう……。






二人は那由汰の家へと向かい



再び走り出した。





那由汰

急がないと……。
紗希ねえちゃんが……。







































* * *











































3年1組 瀧林 紗希























































陽の射さぬ夕暮れ時。











その洞の中は既に闇夜のごとく。

















………。















………。


















時折、雨上がりの冷たい秋風が








洞の中へと吹き込む。









風に吹かれた闇は







漆黒の陽炎の如く揺らぎ







そしてひとときの静寂を呼ぶ。








































































花江

もう……大丈夫かな……?






























和哉

もう…大丈夫だよ……。







































































































































































































































































































つづく

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