下校時間を迎えると
地面を打つ雨音は
ややおとなしくなり始める。
雨の檻に取り残された人々へ
希望を与えるかのように。
すれ違い
昇降口で、雨脚が弱まるのを見計らう
二人の乙女。
止まないかなぁ……。
こんな時に那由汰くんが
傘でも持って迎えに来てくれたら、
実に最高ですねー。
……ちょっと……。
もう、いい加減からかうのやめてよ……。
弄りたいだけじゃなくて、
応援もしているんだけどなー。
まあ、そんな余裕もないか。
何よ。
何がよ!
色々とご想像下さいませ。
くっ……
止んだな……。
那由汰が学校へ着くのを見計らうように
雨はその営みを終えた。
那由汰が昇降口へと急ぐと、
そこには手のひらを上に向け
空の様子をうかがう友美。
しかし、紗季の姿はなかった。
友美先輩!
おー、那由汰くん。
紗希ねえちゃん知りませんか?
あー、紗希ならお父さんが傘を持って迎えに来たよ。
え……。
惜しかったねー。
もう少しだったのに。
瀧林先生が……?
残念残念。
足には自信のある那由汰。
しかし、紗希の父はそれをも上回る速さで
学校まで来たというのだろうか。
仮に帰ったとしても、すれ違わないように通学路を通ってきたのに……。
おや、これは青春タイムかな?
じゃ、またね。那由汰くん。
難しそうな顔をする那由汰をよそに
友美はひとり下校しようとする。
それを見た那由汰は友美を引き止めた。
あ、待って下さい、友美先輩!
うちに来て下さい!
……キョトン
むー……
むむむー……
友美は眉間に少しシワを寄せて言う。
那由汰くん。
……手当たり次第は
感心できませんねー。
……手当たり次第?
今朝の写真の事で、
ばあちゃんが
紗希ねえちゃんと友美先輩を
連れてこいって。
おや。
なんだ、私の早とちりか。
良かった良かった。
いいですよね?
おう、いいよー。
デジカメも早く返してもらえそうだし。
……途中で紗希ねえちゃんを見つけられるかな。
雨上がりの通学路、
足早に来た道を戻る二人の影。
所々に残る水溜りは
パシャパシャと二つの足音を奏で
水しぶきがその後を追いかけてゆく。
* * *
ぐ……
苦しげな表情を浮かべた老婆は
大麻《おおぬさ》を力なく落とし膝をつく。
ば……バカな……。
このワシが、胆力負けするとは……。
三方《さんぽう》に据えられた
忌まわしき写真とカメラは
老婆をあざ笑うかのように鎮座する。
那由汰よ……。
気を……つけるんじゃ……
祓《はらえ》の祭壇を前にして、
老婆は圧倒的な力に抗いきれず
その意識を失った。
つづく