野沢心を見ていると、どうも昔の自分と重なってみえる。嘘をついていたあの時の自分、酷かったあの頃、二度と戻りたくないあの日々。

鮫野木淳

くそ、俺は成長してないな

六十部紗良

どういう意味?

鮫野木淳

まあ、昔の話ですよ

六十部紗良

昔……そう


 六十部はこれ以上、俺の事について聞こうとしなかった。聞かれても答えづらいし、ちょうど良かったかもしれない。

六十部紗良

さて、これからどうしましょう? この様子だと聞きたい事を聞いても無駄そうね

野沢心

……

小斗雪音

もう、紗良ちゃん。それだと怖くて話せないよ

六十部紗良

ごめんなさい。私、そんなに怖いかしら?

鮫野木淳

十分怖いですよ


 その上から目線とか、堂々とした態度が十分俺から見ても怖いですよ。

六十部紗良

あら、鮫野木くんのくせに生意気ね

鮫野木淳

どこのガキ大将ですか

六十部紗良

あら、私は女よ

鮫野木淳

知ってますよそのぐらい

 遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえる。遠くから中庭に向って女の子が叫ぶ。

日泉桜

心ちゃんをどうする気ですか!

野沢心

日泉さん

六十部紗良

どうもしないわ。ただ、調べ事を彼女に聞きに来ただけよ

日泉桜

調べ事!

 何か思い当たる事があるのか、日泉は慌てている。

日泉桜

やめてください! 心ちゃんは関係ないです!

野沢心

――っ

日泉桜

心ちゃん


 野沢は突然、立ち上がった。野沢は自分の震える右手を押さえている。彼女は何か怯えている用だった。

野沢心

ぼ、僕は――

日泉桜

心ちゃん?

野沢心

僕は悪くない

日泉桜

あっ


 そう叫ぶと野沢は走り出した。野沢が何か思いつめた横顔を鮫野木は見逃さなかった。

鮫野木淳

アイツ……


 やっぱり、俺とアイツは似ている。似ていたから強く当たったんだな。

小斗雪音

鮫野木くん……逃げないでよ

鮫野木淳

…………


 また思いだしてしまった。俺もいい加減変わらないとな。

鮫野木淳

おい、逃げるのか

野沢心

逃げる


 鮫野木の言葉を聞いた野沢は足を止めた。

鮫野木淳

ああ、二度も言わせるな

野沢心

じゃ逃げは、悪いんですか

鮫野木淳

悪くない


 鮫野木は一歩ずつ近づいていく。

野沢心

はぁ? 何言ってるんですか?

鮫野木淳

逃げるのは悪くない。ただ、逃げる場所が悪いんだよ

鮫野木淳

一人で逃げたらな、迷うんだよ。駄目な方にな


 そう、昔の俺みたいになってしまう。でもお前は……。

野沢心

じゃ、僕はどうすれば良いんだ

鮫野木淳

たく、あるだろここに最高の逃げ道が


 鮫野木は親指を後ろに指した。

野沢心

へぇ?

鮫野木淳

分かんないのか。守ってやるって言ってるんだ

野沢心

良いんだね。僕を……助けても

鮫野木淳

だから、二度も言わせるな


 目の前に助けられる物があるなら、助けてやりたい。もし、彼女が俺と同じ悩みで苦しんでいるのなら助けられるはずだ。昔、小斗ちゃんが俺を助けたように今度は俺が野沢心を助けてみせる。

エピソード17 カゴメ中学校の噂(7)

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