――修練所。
――修練所。
適性チェックはここで
受けるっすか?
そのとおりだが、
君達二人でいいのか?
そうだ。
早いとこ済ませたい。
余分な説明はいいから
さっさと初めてくれ。
そういうわけにはいかん。
そもそも適性チェックとは……
髭が立派な教官は、いらないと言っているのに、適性チェックの歴史から話を始めた。
苦痛な時間が続き、現在、適性チェックの意義についての説明だ。ハルの意識が夢の世界に落ちかけた頃、教官が険しい顔付きになる。
うん? なんだ?
しっかり説明を聞かないと、
初めからやり直しだぞ。
しっかり聞いているぞ。
続けてくれ。
堅物な髭の教官のやり直し発言に、シャセツは息をのんだ。そして髭の教官の目を盗み、ハルの耳を強めに引っ張り小声で囁いた。
痛たたたたっす。
静かにしろ。
そして寝るな。
あの教官なら本当に
一からやり直しかねん。
それは絶対に
避けねばならん。
わ、わかったっす~
……zzz
お前……
シャセツはハルの鼻っ柱を強烈に捻り上げる。
はがががががが!
何だ! 騒々しい!
教官殿の御講義に
感動してるみたいです。
早く続きが聞きたくて
うずうずしているかと。
傍から見れば白々しいセリフだったが、髭の教官はよっぽど嬉しかったのか、表情を緩め得意げに話し始めた。
……ほう。
ならば聞くがいい。
『適性チェックにおける湖畔の如き静かなる心構えと事前準備に対する注意事項を受ける精神姿勢との関係性を深く掘り下げる為の日常における道徳について』
という話を簡単に説明しよう。
題名だけで簡単でなさそうな話を聞かされそうで、シャセツはうんざりした表情を前面に押し出した。ハルはよく舌の回る髭の教官に対して、ポカンと口を開ける事しか出来なかった。
なぁに、
もう半分くらいで終わる。
しっかり聞いておくのだぞ。
は、半分だと!?
長い長い説明を聞くシャセツ。ハルは何度も鼻を捻り上げられながら、やがて説明は終わった。
以上で説明は終わりだ。
直ちに初めてくれ。
鼻が痛ぇっす。
シャセツはほんと
容赦ないっすね。
五月蠅い。
あんな説明二度と聞けるか!
さっさと終わらせるぞ。
適性チェックは単純な体力測定から始まり、体幹や冷静さ、情報分析から医療技術にまで多岐にわたった。中には何を調べるかわからぬチェックもあったが、見物にきたリュウ達の前でハルとシャセツは順序よくこなしていった。
おいおい凄ぇな。
何やっても出来るじゃねぇか。
す、凄い……
こんなにも凄い人が
いるなんて……。
へぇ~。
強気なだけはあるって事か。
私なんて何やってるか
全然見えないくらいだもん。
気持ち良いくらいの全敗ね。
結果を待つまでもないわ。
結果が出るまでは
分かんないっすよ。
約束だぞ。
全部の能力で
俺が上まわっていたら
二度と関わってくるなよ。
そんな約束してたのか?
どうりで大人しく一緒に
チェック受けてるわけだ。
リュウだけでなく、見物してた者達全員が初耳だった。どう贔屓目に見ても、結果はシャセツの圧勝。そんな雰囲気の中、髭の教官が結果発表を始めた。
力・スタミナ・敏捷性・
体幹・器用さ・冷静さ・
情報分析・医療技術・
武器知識・戦術論。
全てにおいて
シャセツ=シュバード君が
高い結果を残した。
髭の教官はそう言い、適性チェックの結果を紙に書き入れ、それぞれ手渡した。そもそも必要としていないと言わんばかりに、シャセツはハルに渡す。
リュウ達は覗き込むように、二枚の紙を見比べる。
君達二人の優劣を
つけようとするなら、
シャセツ=シュバード君、
君が圧勝だ。
ハル、残念ながら
教官の言う通りだわ。
当然だ。
俺がお前達に劣る所など
一つもない事が
分かっただろう。
その足りない頭でも
それが分かったのなら
これ以上、俺に関わるな。
これは約束だ。
…………。
何も言えないハルに背を向けたシャセツは、そのまま場を離れようとした。
いやぁ~、
今のは墓穴を掘ったな。
……どういう意味だ?
情報分析――トリプルAよ。
シャセツの前に差し出された紙は、昨日行ったユフィの結果だ。情報分析という項目の結果に、シャセツのトリプルA−(トリプルエーマイナス)よりも高い値が書かれている。
まぁ、当然だが、
パワーの値はSランク。
他の項目じゃ負けるけどよ
ここは譲れねぇな。
オイラ、俊敏性と器用さでは
同じトリプルAで負けてないぞ。
冷静さと体幹で
トリプルA。
僅かだが俺も勝ってるぞ。
ついでだが言わしてもらおう。
アデリシア=ブライトマン君
医療技術ダブルS。
タラト君は、
器具を破壊して測定不能。
測定方法を知らないとはいえ、
あの破壊力は並の人間では
ないだろう。
私の説明を聞いてなかったかと
思うと度し難いがな。
言葉に詰まるシャセツ。
ハルとの一対一ならいざ知らず、全員に何一つ負けていないと言ってしまったのは失言だった。
まぁまぁ
そうツンケンするなって。
皆色々あるだろうけど
楽しくやっていかないか?
フン。
ガハッ!
痛っす。
きょ、教官、何するんすか?
…………
いきなりシャセツとハルを、後ろから殴る髭の教官。
き! 貴様、何のつも……
私とした事が最終チェックを
忘れていました。
頑丈さ、
シャセツ=シュバード君、
C+(シープラス)。
ハル=ビエント君
ダブルS。
ック! っな、んだと?
おおーーーー!
頑丈さで勝ったっすよ。
なかなか粋な計らいを
するな、あの教官。
今、ハルの方が
随分強くぶたれたような……。
むっふっふ~。
これで自分達も
仲間っすね。
楽しくやるっすよー。
…………チッ。
全くうっとおしい奴だ。
後頭部を庇いながら、シャセツは何かを諦めたような表情を僅かに見せた。口数は相変わらず少ないシャセツだったが、ハルの目には、少し優しい表情を零したように見えた。
ん?
そう言えば、頑丈ってのは
凄いけどカッコ悪いって
誰か言ってなかったか?
いつもこのコメント欄まで読んで頂いてありがとうございます。
いつもと違う趣向の終わり方にしました。
ちなみに最後のダナンのセリフは
『~伏章~19、人類皆善人』
を見直して頂ければ幸いです。
コメントメルシーRu_Ruさん♬
ちなみに、「二度と関われない」事を回避しただけで、ハルが勝手に仲間になってると思っているだけなのです。そんなハルと同じ気持ちになって頂けて幸いです。
更新お疲れさまです!
やっと名前を教えて貰えたシャセツとの、ある意味勝負ともいえる今回。
ハルが全負けしなくて良かったです!
ハルには本人も自覚してない可能性を感じてましたので(*^o^*)
よしじろさんメールスィ~でーす♬(だんだん崩れてきたw)
頑丈さは、髭教官の計らいなので、ハルとシャセツのみですね。おそらく打たれ強そうなハルを見て咄嗟に殴ったと思います。