シスター

なんせ私もこのチャーチに来て間もないものですから。
それも含めて鑑定して下さるのがあなたのお仕事でしょう?

二岡 アライヲ

無知を堂々と振りかざすなよ。

二岡 アライヲ

少々お待ちを。

シスター

その本はなんですか?

二岡 アライヲ

西洋骨董品のカタログ本です。
一応、こんな事もあろうかと思って準備しておきました。

シスター

はじめから調べる用意があるなら聞かなくても良いでしょう?
怠慢は神への冒涜です。

二岡 アライヲ

その言葉。
そっくりそのままお返ししますよ。

アライヲはシスターに悟られないように“空白”のページを読みながら骨董品の説明をする。

二岡 アライヲ

なるほど。
この品物はクリプテックスと言って、いわばパズルのような作りになっているようですね。
この中央のダイヤルをある単語に並べれば開けられるはずなのですが…

シスター

そのアイテムが何なのかさえ知らなかったのに、どうして私がそんな暗号を知るわけ…

二岡 アライヲ

まだ何も言ってないでしょう?
それにもはやこの商品の詳細に関してシスターには何も期待していませんから。

二岡 アライヲ

B・U・T(た・だ・し)

二岡 アライヲ

お言葉ですがシスター。
これだけは忠告させて頂きますがこの手のお品物にはキー、もしくは暗証番号が無いと買取できません。

シスター

何ですって!?

二岡 アライヲ

私と致しましてもこの商品を買い取ってから第三者にお売りする事で商売をしているわけでして、
決してボランティアでやってるわけではないのです。

シスター

そんな事を言われても知らないものは知りません!

二岡 アライヲ

失礼ながらシスター。
私は実はあなたの特技と言いますか、
その“タロット占い”の噂はかねがね伺っているのですよ。

二岡 アライヲ

なんでも、先の大地震の日時を完全に予期してこの教会に多くの人々を避難させたのだとか。

シスター

そ、それは…

二岡 アライヲ

どうでしょう?
是非シスターのそのタロットカードの力でこの暗号を解き明かしてみるというのは!

シスター

お断りいたします。
私のタロットカード占いはあくまで神に敬虔な祈りを捧げる方々へのささやかな余興に過ぎません。それを興味本位で外の人間に易々と…

二岡 アライヲ

もし占いで解いて下さったなら買取は倍額とさせて頂きます。

シスター

なんですって?

二岡 アライヲ

ただし解けなかったら鑑定も修理もキャンセル、僕は直ちに帰宅しお茶を飲ませて頂きたい。
先ほどからこの蒸し暑い室内で、コップ一杯の水も差しだされず、一方的に“お説教”されるのは正直耐え難い。

シスター

仕方ないですね。
驚いても知りませんよ?

二岡 アライヲ

どうやら金が絡むと話が早いのは聖者も凡人も関係ないらしいな。ククク

シスター

私の占いが当たったら、
ステンドグラスを無償で直して下さいね?

二岡 アライヲ

構いませんが…聖職者がこんな賭博をしても本当によろしいのですか?
ましてこんな厳かな教会の中で?

シスター

問題ありませんよ。
これは浅ましい勝負事などではなく、余興交じりの商談に過ぎません。

シスター

それにこの話の流れを作ったのはあなたの方でしょう?
私は神の御許、誰であろうと隣人の声に耳を傾けるだけです。

二岡 アライヲ

この女、相当の数寄者だな。

シスター

あと占う前に、
紅茶にします?
それともコーヒーがよろしくて?

続く

20世紀のメロディー その5

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