人生、意味ねえな

お巡りさんは腹ペコで凍死しそうなホームレスなんて無視して、
深夜に走る自転車の盗難チェック(ポイント稼ぎ)に必死になっている。

「いま変な男に追われているんです!!助けて下さい」
って命がけの110番した女性の声に
「被害が起きてからじゃないと我々は動けないんですよ。とりあえず自分で何とかして下さい」
ってニュアンスの適当なアドバイスをして、警察署は下手したらその声すらいたずら電話なんじゃないかって疑っている始末。

錆びた包丁一つで抗争中の事務所に突っ込んでいった65歳の老兵は案の定、
待ち構えていた今時のヤクザ達に拳銃で撃たれまくってハチの巣。
警察が動く頃には東京湾の餌となって消されているはず。

隣の火事場は露知らず三社祭りの準備に浮かれる老害な江戸っ子たちに無理矢理神輿を担がされる僕らの世代。

そんなどうにもならない声にさえ惑わされる僕のメンタリティ。

あー、めんどくせー

それでなくったって僕はいっつも頭と背中が相当痛い。

やりたくない事をしたり、ちょっとでも不都合な事があるとすぐに眩暈と吐き気をもよおす僕の残念なメンタル
(クリニックの先生曰く「とりあえずストレス過多ね」)
のせいもあるのだけれど、

本当に問題なのは

何のために生きてるかマジでわっかんねーって事

そーゆーわけで僕は今、
浅草のうんこタワーの最上階からクソみたいな町を見下ろしながら、
そろそろ隅田川にダイブしようと決めたところなのだった。

閑話

『インフェルノ』

吾妻橋のネオンに照らされた墨田川は大昔に火事や地震で行き場を無くし、
水に飛び込んだ人々の無念の魂を照らし出すように

奥底から業火が
静かに燃え滾っている。

あはは。とうとう幻覚まで見えるようになったら俺もおしまいだな。

高いところから人を見下ろすのが好きなのですね

いつからそこにいた?

二岡 アライヲ

さあ、いつからでしょうね?
さっきからの君の独り言は嘆きですか?それとも怒りですか?

基本的にコミ障で他人としゃべれない僕だが、
目の前に現れたこの男に驚きや恐れもなく、
むしろ癒しさえ覚えた。

どっちでもないよ。
ただの失望だから。
自分にも世の中にも何にも期待してないし

間違いない。

多分、この男は死神か悪魔のどちらかだ。

言っておくけど冗談でもなんでもないぞ?
止めても無駄だ。
俺は普通に死にたいんだ。

二岡 アライヲ

誰もあなたの死を止めるだなんて言ってませんよ。
好きにすればいい。

隅田の入水自殺はそんなに珍しい事でもないですから。

二岡 アライヲ

魂は肉体の奴隷。
その肉体が魂の行く手を阻むのなら好きに手放せばいいと思いますよ

見くびってるんだろ?
どうせ俺がビビッて死なないとたかをくくっているんだ

二岡 アライヲ

滅相もない。僕は首をくくるところを見に来ただけですよ。
死は最大のショーですから。

…もうなんでもいいや。
ありがとう。一瞬だけ楽しかったよ。
まあまあ笑えるジョークだった。

二岡 アライヲ

ありがとうございます。
でもその前に…
ここは一つ、冗談ついでに僕と眺めの良い場所にでも行ってみませんか?

は?

そう言って悪魔は僕の背中を強く後押ししたんだ。

どうだ?死ぬほど怖かったろ?

…!?
僕はまだ生きているのか?

赤鬼

君の胸の中にあるINFERNO(地獄の業火)はたしかに死の理由に値する。

赤鬼

それと等しく生きる活力にもなり得るのだ。憎しみは愛よりも気高い。

御託はどうでもいいから。
とにかくもう要らないんだ。
この人生も体も、何もかも。
まともな人生なんて僕には無理だ。

赤鬼

簡単なんだな。前世ではあんなに人間になりたがっていたのに

は?何言ってるの?

赤鬼

君が前世でこの隅田川に浮いた死体の山を食い散らかして掃除した功績を称えて人間にしてやったんだよ。

へえ。じゃあ僕は何者だったんだい?
鬼か悪魔か?

赤鬼

銀色のカラスさ。
だからこの川の死肉を散々喰らった君のはらわたには町中のインフェルノが煮えくり返っている。

あはは。悪くないね、ソレ。
気に入ったよ。

赤鬼

因みに自殺をする君が逝く先は黒縄地獄。
今の体よりもキツイ縄の拘束によって500年締め上げられ、拷問を受け続ける。

今生で人間に転生してしまった事を呪うんだな。
感情や意志を持った以上、この世にもあの世にも心安らげる場所などない。

…どうして僕にそんなに丁寧にするんだ?

赤鬼

一つはこの町で死に逝くものへ地獄を説明するのが俺の仕事だから。

赤鬼

そしてもう一つは…あの時代、君が唯一の話し相手だったからかな。
よくこのくすんだ空の上を一緒に飛び回ったものだよ。

そうだったのか。
一体、君と僕はどんな会話をしたんだい?

赤鬼

今みたいな会話を延々としていたよ。

なるほど、だろうな。

赤鬼

さて、これで俺の役割は終わった。
あとはそれを踏まえた上でもう一度考え、決めるがいい。

赤鬼

DEAD OR BET(死ぬか生きるか)

月明かりの下で、
僕は悪魔に優しく決断を迫られていた。

ナルサワくん

っていう。
以上。

マスター

ええ!?今ので終わり?

ナルサワくん

イエス!
こういうのをリドルストーリーって言って謎を残したまま、あとは読者の想像力に委ねるっていうスタンスっす。

マスター

そんな意地悪しないで、最後まで聞かせてくれよ。今日のバイト代ちょっと多めに払うからさあ。
よ!噺上手!

ナルサワくん

いや、だからそういう駆け引きじゃなくて自分でラストを選択して想像するんですよ。
作中のキャラの意味深なセリフとか設定の謎から自分なりに伏線を感じてその後の展開を考察していく
…いわばイメトレ的な遊びなんです

マスター

うーん、あまり考えるの得意じゃないし、怖い話ちょっと無理。
ピンボールの方が断然ラク~

ナルサワくん

ワォ、変なトコだけ現代っ子化…ていうか脳が幼児化してる。

それとそもそもボク、怪談とか怖い系落語とか話してたワケじゃないし…

「この少年と初老は誰?」と思った人間はこの門扉を開けよ!!

二岡 アライヲ

ごめん下さい。

ナルサワくん

ああ、どぅも!

二岡 アライヲ

あはは、どぅもどぅも。

マスター

おお、これは二岡様!お久しぶりです。

二岡 アライヲ

はい、ご無沙汰してます。

ナルサワくん

ご注文は?

二岡 アライヲ

アイスコーヒーと9mm Parabellum Bullet『インフェルノ』をお願いします。

ナルサワくん

はいかしこまりました!

マスター

ぎゃあ!!ナルサワ君、二岡様、テーブルの下に!
どうやら私たちは〇〇組の抗争に巻き込まれたようです、浅草が血の海に染まる前に一刻も早くここを離れましょう!

ナルサワくん

ひぇ~、展開が唐突過ぎる~!!

二岡 アライヲ

大丈夫です。
どうやらカラスのいたずらのようです。

マスター

全く…ナルサワ君が変な怖い噺なんかするからだよ。
全然オチ面白くなかったし。

ナルサワくん

そりゃ、どうも悪うございましたね。
つか、オチが無いからリドルストーリーだって何回説明すれば気が済むんだよ老害。

二岡 アライヲ

あはは。
ちょっと虫の居所が悪かったのかもしれませんね、あのカラスは。

美しき鳥よ 終わりのない夜を超えて 命を燃やし尽くせ

御仕舞

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