突如送られてきたアハドからの贈り物。果たしてその中身は・・・!

・・・

・・・

・・・

・・・何これ

誰も声を出す事を忘れてしまっていた。やっと少しの間をおいてハシムが皆の心中にある疑問を言葉にできた。それ程までにその中身の物体は・・・本当によくわからないものだった。

・・・あ~・・・その、菓子だ・・・菓子・・・

2回言う必要がきっとあったに違いないとルトは本能的に察し返答した。

いや、これは、そのなんというか

食べ物にすら見えないんだけど

あ~カエデの正直者。そうアハドから送られてきた菓子は最早この世のどの食材にも当てはまらないような物体、新種と言っても過言ではない代物だった。

おい、何のつもりだ。こんなもん寄越しやがって。王族の施しが金目のもんでもねえ訳わかんねえ菓子だ?毒でも入ってんじゃねえだろうな?ああ!!

無礼だぞ!仮にも一国の王直々の御用達だ!・・・しかもアハド王手作りの、い、逸品だ!

なに!?

・・・うそ

マジ?!

アアアアアハド様が!?///////

そうアハドから送られた品は、アハドの手作り菓子だったのだ。最近女中たちが楽しそうに菓子作りに精を出しているのを見て興味が沸いたようだ。
しかし誰に教わったのか自己流なのか・・・何にせよとても食べられるものではない事は間違いない。
と、なるとこれをどう処理すればよいのだろうか?そう思いかけたが、またルトが横槍入れてくる。

皆、今ここで食し・・・か、感想を述べよ。そう王からの命令、だ。

ここで死ねというのか!!

誰もがそう感じ背中に異常なまでの寒気と汗が噴き出す。
気が付けば先ほどまで賑わっていた市場は早々に片づけられ広場にはここにいる5人以外ほぼいなくなっていた。
きっとここで野垂れ死んでも誰もわからないだろう。

確かにアハドの気持ちは嬉しい。しかしこれを食すには並々ならぬ度胸と愛情が試されている気がした。
誰もが食す事を躊躇っていた。が、一人だけ違うオーラを出す人物がいた。

アハド様のお菓子///

ジアだった。物体の恐ろしさよりアハドの手作りという事実の方が上回って思考を狂わせているようだ。

僕、いただきます!

!?

はあ!?

ちょ、早まるな!!

よし!よく言った歌歌いジア。お前の勇気と王への忠義確かに目視した。さあ思う存分食せ

いやいやいや!ルトさんアンタ鬼ですか!いくら王様の命令でもこれは死期が垣間見る所業ですぜ!ジアも考え直せって!!

いただきま~す♪

「いただきま~す♪」じゃないだろ!人の忠告聞こうぜ!おいいいい!!!

あ、食べた・・・

・・・ジア?

っ・・・

誰もがその場に佇む。

そして・・・

・・・アハド様・・・素晴らしいです

な、何だって!!!!???

ウソでしょ!!?

まさかの感想を言ってのけたジアに一同騒然となった。これが美味しいというのか!?そんな奇跡が起きようとは!

ふ・・・

ふふふ・・・はははははははははは!!!!!あは、あははは・・・・・・
ぐはああっっっ

そんな事あるはずがなかった

ですよねーーーー!!!!

世の中そんなにうまくは出来ていない事を実感する案件でした。

さあ、次は誰の番だ?

こいつは鬼だ

誰もがそう思えた。実際目の前で人が狂人のようになりながら失神したのにも関わらず、まだこの惨劇を繰り返そうとするこいつは鬼以外の何者でもないだろう。

が!

ぐっ!

ルトさん?

今度はなんだ!

突然ルトが苦しみだした。いや元々ここに来る時から足も覚束ないほどの状態で伝達に来ていたのだ。まだ不調のままなのだろう。
そうなるとこれは逃げるチャンスではないだろうか?しかし鬼人と化したルトがやはり行く手を阻む。

に、逃げる事は絶対許さん・・・ぐはああ!

!?こ、これは

ルトが少し液体を嘔吐した。その不思議な色は、そうまさにアハドの菓子の色だったのだ。

ジアと同じ色の・・・はっ!アンタこの菓子食べてたのか!!?

ふ、ふふふ、ご明察。アハドからお前たちに施しがあって俺にないなんて事、ある訳ないだろう?俺は一つも残さず食した・・・お、お前たちにも食させる!王の命は絶対・・・誰一人かける事なく食させてみせる!それまで倒れるわけには、いかん!!

この男を支えているのは忠義とプライド、そして持ち前の忍耐力の強さだった。

狂ってる

チッ冗談じゃねえ!元から施しなんぞいらねえんだよ!盗賊が物乞いの真似をしろってか?いい笑い種だろうが!!俺は帰らせてもらうぜ

そう言い捨てながらその場から立ち去ろうとするジャリル。賢明な判断である。しかし、やはり野次を飛ばしたくなるのも人の子のする事だ。

・・・盗賊の頭で偉そうにしてる割りに菓子の1つも食べられないんだ

あ?

まあ無理もない事でさあ・・・いくらジャリルさんでも無理なもんは無理でしょうよ

そんな事を言われては黙ってはいられない。顔の所々に交差点を作りながらジャリルが引き返してきた。売られた喧嘩は買ってしまうこの性分。

なら・・・テメーらが、食え

菓子1つくらいなもんなんだろ?なら食えよ

あ!そうだ!俺今朝からどうも腹が痛くって

お前今朝美味そうにベーグル食べてたそうじゃねえか?

何で知ってんスか!?

この国の情報くらい子分共が持ってくる。今日取引する相手なら尚更な。それにお前もだガキ、甘党なんだってな?なら菓子は好物だろ・・・食え

う・・・もう飯時に顔見られないようにしよう

変な情報網

という会話を進めたところで状況がこれっぽちも変わらない3人である。
そんな3人を見て先程まで鬼人のように振舞っていたルトが弱弱しく口を開いた。

正直お前たちの気持ちはよくわかる。アハドの菓子は・・・食えたもんじゃない。

うわっこの人従者のくせに言っちゃったよ

だがな、性欲以外なんの取り柄もやる気もないあのアハドがだ

もっともだ

城の者や俺たちにと心を込めて作ったんだ。

不器用ながらも一生懸命にな・・・お前たちがアハドの事を大切に思うのなら一口だけでも食べてやってくれないか?

頼むとルトが頭を下げる。王の従者が盗賊や商人、使用人に頭を下げるなど普通に考えればありえない光景だ。
だがこのルトの言葉に疑問点があったことを聞き逃さなかった。

あの、さっき城の者や俺たちって言いましたよね?

・・・ああ

つまり城の者も食べたと

・・・・・・ああ

で・・・どうなったんスか?

・・・・・・・・・頼む食ってくれ

食いたくねえええええ

全滅したんだと思い知らされた。なんと杜撰な説明だ。こんなんで殺人菓子を食べるなんて芸当出来るわけがない。しかし逃げられないのも確か。途方にくれかけたその時だった。

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