とある国のとある城で今日というこの日、次々と取り殺されたかのような悲鳴が絶えずこだまし国はまるで気息奄々たる状態に陥る事になろうとは、この時誰も知る由もなかった。


その恐怖の足音は徐々に近づき・・・最初の犠牲者が声をあげた。


!?な、何事だ!

この異常事態にいち早く気づいたのが王の従者「ルト」である。

ルトが声のする方へと向かうと、一人の兵士が青白いというよりほぼ真っ白な顔をして倒れていた。

なっ!おいしっかりしろ!何があった!!?

ル、ルト様・・・

兵士は息も絶え絶えで辛うじてまだ意識があるといった状態だった。

ここで何があった?

気をつけて・・・くだ、さ・・・ア、アハド・・・様が・・・グフッ!

なに!?アハドがどうした!?おい!

兵士は最後の力を振り絞ったが、根も付き意識を飛ばしてしまった。

一体何が…まさか侵入者!?アハドが危ない!!衛兵!!衛兵!!速やかに王の安全を確保し城全域の警備強化及び追撃態勢に入れ!!!

?おい!誰か!誰かいないのか!?

返事がない。それどころか城の者の気配が先程から感じられない事にルトは気づいた。
おかしい。小国ではあるが使用人や兵士はそれなりにいる。それに自分の管理下にある以上城内をこんなに隙だらけにしてはいない。では、他の者はどこへ?そしてこの兵士を襲ったのは一体・・・。

と、兎に角アハドを探さないと!!

足音!?

誰だ!!

無粋な奴だ。自国の王の顔を忘れたか?

アハド!!?よかった!無事だったんだな!

?何かあったのか?

先ほど兵士の一人が何者かに襲撃された。それだけじゃない城内の者も気配すら感じられない。・・・アハド、これは由々しき事態。原因が何にせよお前の身の安全が先決だ。休暇中のカエデを帰還させるまで自室でじっとしていてくれ!

使用人たちなら先程まで俺と調理場にいたが?

え?調理場?

どういう事なのか。先程まで皆がいたのならこの静けさは一体?ルトは困惑した。

何があったかよくわからんが、それよりもルトお前に頼みがある

所変わってここは市場。港から商人たちが様々な品を売買している。食材・衣類など他国の珍品なども多く揃って国一の賑わいを見せている。

らっしゃいらっしゃい!おっそこの兄ちゃん♪ちょっと見てってよ!これ、これなんてどうだい?隣国の貴族愛用の手鏡!彼女に渡せばきっと喜ばれることウケ合いだあ!

商売文句を軽々と口にしながら本物かどうかなんてどうでもいい品を片手に商人は若い男に声をかける。

いらない

一刀両断とはまさにこの事。折角の商売文句も不愛想にたった一言で終わらされてしまっては台無しだ。商売とはなんと難しいのであろう(笑)
そんな商人を一蹴したのがこの「カエデ」。アハドのお気に入りのボディーガード。その若さからは想像もできないほどの身体能力の持ち主。現在滅多にない休暇中だ。

休暇といってもホントやる事ないし・・・帰ろうかな?

カエデが帰ろうとしたその時、後ろから少し遠慮がちに呼び止められた。

あ、あの

消え入りそうな声の主は女性と見紛う美少年だった。

あれ、アンタ確か

はいジアです。お久しぶりです、カエデくん

彼は「ジア」。先日入国したばかりの旅一座の歌歌いだ。一度王宮に呼ばれその美声にアハドや神官たちを魅了した。その際にカエデとも面識があったのだ。

君も買物?

別に。暇だからぶらついてただけ

そう・・・あ、あの・・・アハド様は?

・・・あの人になんか用?

い、いや・・・用は・・・ただその、お元気かと///

・・・

あの一度の拝謁でジアの方もアハドの事が気になって仕方がないようだった。それを知ってかカエデにとってはあまり面白くない話のようだ。

あの人なら元気だよ。・・・それだけ?ならもう行くけど?

あ・・・

さっさと切り上げて帰ろうとするカエデ、まだ何か言いたげなジア。重くなりつつある2人の空気。
しかしそれを打ち破るように先程の商人とは別の商人が手を鳴らす。

あ~はいはいはい!そこの美少年たち!ちょっと見てってよ♪

!?あ、あれ?ハシムさん

ここで何やってるの?

「ハシム」と言われた赤髪の青年。主に貴族や闇ルート中心に商売をしアハドとも個人売買契約をしている。ここではちょっと名の知れた商人である。

何って商売に決まってるでしょ?

アンタ王宮に出入りしてる商人なのにこんな市場でも商売してるの?

ご用とあらばいつでもどこでも現れますよ♪と言っても確かにいつもはここで商売はしてはないけど、今日は人を待ってるんでね

人?(アハド様・・・じゃないよね、きっと)

お!おいでなすった

例の物は用意できてんだろうな

できてますよ!だからここにいるんじゃないですかジャリルさん♪

そう言って現れた大男の名は「ジャリル」。この国の盗賊頭である。その割に一目も気にせず堂々と市場に顔を出すあたり流石というか、かなり度胸は据わっているようだ。

!?・・・昼間っからよく顔出せたね

あん?なんだこの間のクソガキか

っ!

アハドが一度ジャリル盗賊団に捕まった(?)際、一戦交えてから相手の実力をわかってる分忌々しいと感じてしまっている2人が顔を揃えたのだ。異様な空気が2人の間に漂う。
臨戦態勢を整えながら相手の出方を待つ。

しかし

まあまあお二人さん、こんな人の多いとこでやり合ったりしたら目立っちまいますぜ?お互い面子もあるでしょうし、ここは一旦引きましょうや?

こういった場面での口裁きは流石商人と言ったところか。そして自分の置かれている状況を把握する2人。

通行人の目線が集中しかける。

チッ、まあいい。おいハシム、さっさと物をよこせ

はいはい。少々お待ちを♪

はあ~、帰ろ

あ、じゃあ僕も失礼しますね

なんとかその場は収まりそれぞれ離散していった。


ように思えたその時!

おーい!お前たち!待ってくれー!!

平穏に終わりそうな雰囲気に声をかけ割って入ってきた男がこちらに向かってやってくる。ルトだった。しかし、その足取りは重く顔面蒼白でいつ倒れてもおかしくない様子だ。

おやおや、今日は珍しい面々が揃ったもんだ

ルトさん、相当顔悪いよ

いや顔色ね

全く、厄介なのが来やがったな

王の従者であるルトは盗賊討伐の第一人者であるため、今ここでジャリルと対峙しまうのはカエデより最悪な展開なのである。
しかし、そんな状況を一変させたのはルトの方だった。

ジャリル、今日は王の使いで来た。貴様を討伐するのはまた別の機会だ

ほう

あの王の使いって、アハド様のですか!?

そうだ。ここにいる4人にアハド王から施しが与えられる。心して受け取るがいい

そう言って少し大きめな箱を4つ取り出しそれぞれに渡した。

これ・・・何?


4人は恐る恐る箱を開ける。
そこにあったのは!

アハドの贈り物 前編

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