ルトの無茶ぶりな応対の最中、カエデが何を思ったのか自分に与えられた菓子を鷲掴みし勢いよく食べ始めたのだった。

モグモグモグモグ・・・っ

カエデ!?

ちょっ、そんなに一遍に食べたら

・・・

ぐっ・・・は、モグモグモグモグっ・・・

ほんの少しの間だったに違いない。が、何分にも何時間にも感じられた。それでもカエデは脇目も振らず菓子を食べ続けた。

そして

モグモグ・・・・・・はぁ・・・ご馳走様

食いやがった・・・

遂にカエデはアハドの菓子を完食したのだ。一口食べただけでも卒倒する破壊力のあるあの菓子を一心不乱に食したのだ、ポーカーフェイスを崩す事のないカエデの顔は蒼白し今にも倒れそうになっていた。が・・・

・・・っ・・・た

ん?なんだどうした?

カエデは最後の力を振り絞り想い人の顔を思い出しながら

美味しかった・・・

おまえ

・・・

正直美味しくはない。いつもの気まぐれで作ったのかもしれない。けど間違いなく自分にと想い人が作ってくれたのモノだ。それだけで本当に美味しいと感じた。

満足だ・・・満足・・・

ぐはっっっ!!!!!!

カエデーーーーー!!!!!

こうしてカエデは沈んだ。彼の勇士は他の3人の胸に深く刻まれた事だろう。

カエデまで・・・クッ!どうしてこんな事に・・・・・・あれ?

どうした?

・・・ルトさん、アンタこの菓子全部食べたって言いましたよね?

そうだが?

カエデですら失神してしまうほどなのに、なんで辛うじてにせよ立ってられるんですか?

確かに忍耐力でどうにかなるような代物じゃない事は先に散っていった2人を見れば一目瞭然だった。それにカエデの方がルトより体力面も上のはず。では何故?

おい・・・どうなんだ

っ・・・そ、それは

はっきり言え!!!!

俺が食べたのは試作品で・・・皆の量の1/10程度・・・でした・・・すみません

あぁ!!?それで全部食べたとかなんとかよく言えたな!この犬野郎があ!!!

汚い!大人って汚い!!

さっきまでの鬼人は何処へやら。どんどん小さくなっていくルト。しかしどんな手段を使ってでも任を遂行しなければならない。汚名など問題ではない。いかに目的の人物たちに食させるかが今の自分に与えられた使命であるとルトの意志は固い。

う、うるさいな!・・・コホン、さあ残るは2人。若年の者が先に食したんだ。まさかこのまま引き下がる訳ないよな?ジャリル、ハシム

話題を戻しやがった~。こりゃまずいねぇ、どうすっかなあ

八方塞がりになってしまった。このままでは永遠にこの話は終わらないだろう。これは長期決戦になりそうだとハシムとルトは心中ため息をつく。

ところがこの男だけは違ったようだ。

ああ!めんどくせぇな!!!!

とうとう完全にしびれを切らしてしまったジャリル。元々そんなに温厚でも気長でもない性格だ。よくもった方だろう。

寄こせ!!

てっきり逃亡ルートを選ぶとばかり思えたが、なんとジャリルもカエデと同様、自分用の菓子を無心に食べ始めたのだ。

ジャリル!?おまえ

ジャリルさん!?

殆ど怒りに任せている感はあるものの、盗賊の名に相応しい豪快な食べっぷりを見せ、あっという間に平らげた。

・・・ッペ

少し口に残る余分な唾液を吐きだしながら口を拭う。

これで満足かよ・・・

あ、ああ・・・よく、食してくれた

あの菓子を食べて誰も立ってられない程だったのにジャリルは気丈なままだった。

ジャ、ジャリルさんすげーッス!

ふん・・・もう全部食ったんだ、俺は帰るからな!

そう言って誰の返事を待つことなく早々に立ち去ろうとし、

アハドのやつに言っとけ!〝クソ不味かった〟ってな!!!

ちゃっかり感想も言い残しその場を後にした。
流石伊達者である。



しかし、その後盗賊団アジトにて盛大に叫換する男がいたとかいなかったとか・・・

ぐあああああああ!!!!!

お頭ーーーーーーー!!!!!!!

さてもうお分かりだろうが、こうなると残るはただ一人。

・・・俺だけか

・・・そうだな

ルトがそっとハシムに再度箱を差し出す。もう何も言う事はない・・・ただ食えと・・・・それだけだった。

震えながらその箱を手にし視界の端のカエデやジア、去っていったジャリル、城の中の死屍累々・阿鼻叫喚・・・自分もこれから同じ道に進むのかと恐怖した

アハドのダンナは愛せてもこの菓子は愛せねえ~クソッ!

商人ハシム!

っ!

ああ、終わった。

もう観念するか・・・これ全部食べたらきっと暫く商売できないだろうな~とか、各港に置いてきてる現地妻たちが悲しむだろな~とか、走馬灯のように色々な思いが廻った。

もうダメかと思ったその時

あ・・・そうだ、そうだよ!!

え?

ルトに呼ばれハシムは自分が何者なのか思い出し、そしてこの現状を脱する方法を閃いた。

俺は〝商人〟!俺は俺のやり方でこの菓子を食してみせる!

ルトさん頼みがあります!

え、また頼まれごとか!?

ここはアハドの国とは少し遠方にある港町。
市場は賑わい商売繁盛万歳な店が連なっている。

その中でも一際目立ち行列を作るほどの店があった。

はーーーーいはいはい!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!彼の地の王族が極秘に開発した代物だよ!その名も《Curse of love》愛を試したいお嬢さんに呪詛をお求めのお兄さん!活用はお好み次第!しかもとても珍品のため数量限定早いもん勝ちだあ!!この機を逃しちゃあお客さんの器量が下がるってもんだ!野暮な事も言いっこなし!さあ買った買ったーーー!!!!

あれからハシムはルトに頼み込み、自分の分だけでなく城で余った全ての菓子を譲り受けた。そしてそれを他国へ売り出したところ大盛況ののち見事に売り切ったのだ。あまりにも人気の商品になってしまったので買い求める客が後を絶たなかったとか。

こうしてハシムは菓子を自分の〝食物〟にし商売という形で食したのだった。

これだから商売はやめられねえな!

根っからの商売人のハシムなのであった。

賑わいをみせていた港も夕方にはすっかりと静かになっていた。
ハシムも一仕事が終わりふと海の向こうを眺めながら、そっと懐からほんの一かけらの菓子を取り出した。

アハドの菓子だ。

モグモグ・・・うっ・・・かはっ・・・は、はは。なんだかんだで、最後のこの一かけらだけは誰にも、やれねえわな・・・美味かったぜダンナ♪

チョコは上手くいったようだし・・・よし!次はケーキに挑戦だな♪

アハドの菓子の正体はチョコレートだったようです

ありがとうございました

アハドの贈り物 後編

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