第8章

黒の夜

目を見開いたソルの前に、

再び法廷の風景が広がる。

ソル

………今度は何?

コレット

さぁ、ソル教えて……今回の件について……何があったのか

ソル

なぜ?

コレット

証言台に立っているのは貴方だよ。貴方から私に質問は認めません。

ソル

事件当日か……きっかけとなった出来事は朝になるよ

それは突然のことだった。

聞いて、赤ちゃんが出来たのよ

そのことを喜んで報告する両親を俺たちは冷めた目で見ていた。


この十年、彼らは一度も俺たちに愛情を向けた日はなかった。


ずっと互いだけを見て、互いだけを愛していた。



別にそれ自体は悪いことではない。






突然、愛情を向けられても困るのだから。

だから、今は心底困っている。

最後に会話をしたのは、いつだっただろうか。



一緒に住んでいるのに、下手すると一年以上言葉を交わしていなかった気がする。

そんな相手に、満面の笑顔を向けられても戸惑うしかなかった。

ソル

……

お前たちは独り立ちできるだろう。

なんて勝手なことを言い出す。

ソル

ふざけてるのかよ

吐き捨てる言葉に、この人たちは目を瞬かせる。
どうして俺が怒っているのか分からないのだ。

そんなに怒ることなの? 幸せなことなのに

ナイト

ああ、幸せだろうね……オレたち以外は

珍しく棘のある言葉をナイトが口にしたので、ギョッとして横目で彼を見る。

いつになく不機嫌で目がナイフのように鋭い。

だけど、この人たちにはナイトの放った棘が見えていないのだろう

ありがとう、祝福してくれるのね……あの子はまだ引篭もっているの? こんな素敵なおめでたい日なのに

そのようだな

彼らには俺たちの姿が見えていなかった。


ナイトは無言で部屋を出て行く。

ナイト

………

ソル

お前たちの幸せなんて消えてしまえばいい

俺はそう呟いてナイトの後を追う形で、部屋を出る。

ナイトと俺が立ち去ったことに、彼らは気づいていないし、気にしてもいないのだろう。

自分たちが夫婦と新しい子と三人で新しい生活を送る。

その為には自分たちの血を引く子供たちは邪魔だった。

だから追い出そうと言うのだ。



部屋に戻るのに廊下を歩いていた。
 
無駄に広い屋敷に、初めの頃は迷子になりそうになったものだ。



この家の地下室には書庫がある。亡くなった祖父の趣味だった。

今はエルカが引き篭もっている。

俺には理解ができないのだがインクの匂いが落ち着くのだとか。その入り口にナイトがいた。

ナイト

……ということになったんだ

エルカ

……了解

ナイト

了解って……お前、それで良いのか?

エルカ

……私がやることは変わらない、引き篭もるだけ

ナイト

お前なぁ……まぁ……あの人たちが何を言おうと、オレがお前を引き取るつもりだけど……………あと、飯は置いておくから、後で食べろよ

エルカ

今読んでいる本が怒涛の展開……………それどころじゃないの

ナイト

倒れたら続きが永遠に読めないぞ

エルカ

…………わかった。中に入れて

ナイト

おう

ナイトはパンののせられたトレイを隙間から入れる。

ガシャンと扉は閉まり、中で鍵が閉められる。

ナイト

……

ソル

……

ナイト

おう、ソル。バイト行ってくるな

ソル

こんな時にまで行くのかよ

ナイト

分かっているけどさ……あいつが側にいさせてくれないからな。
そのかわりにあいつの為に働いてくるんだよ。

ソル

名前の通りの騎士さんだな

ナイト

昔からの習慣なんだよ。お前が来るまでは二人きりの兄妹だったし、爺さんからも言われていたことだしな……生きがいみたいなもんさ

ソル

……

ナイト

お前が来てからは三人家族だったな

ソル

は? 何を言っているんだか

ナイト

じゃ、行ってくる

ソル

はいはい

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