小暮忍

俺は幸せになる資格なんて無い人間だから

織原経華

よくわからないけれどにゃんにゃん先生は…小暮忍さんは幸せになる資格は絶対あると思います。

小暮忍

そんな…俺には…

織原経華

この町のいろんな人たちを健康にして元気にしてるんですから。
少なくとも私はとってもとっても幸せでした。

「さようなら」

経華は満面の笑みで小暮の肩をドンドンと叩いて元気いっぱいの素振りでその場を去っていった。

小暮忍

おい、ちょっと…

安田粧子

さようなら

その姿がまた粧子と別れたあの日をオーバーラップさせた。

小暮は直感では追いかけるべきだと思いつつも、脳が、臆病な理性が体を抑え付けた。

そのまま震えて動けず、
グツグツとした気持ちでその後ろ姿から目を逸らした。

小暮忍

…っち

取り出した煙草も震えて床に落とし

小暮忍

何をやっているんだ、俺は。
俺は何度も何度も

情けなさで目頭が熱くしていると、
映画の最終回も終わってブザーがなる。

観客と一緒に欠伸をしながら館内から出てくる菅原。

菅原大吾

よお小暮選手。あれ経華ちゃんは?

小暮忍

なあ菅原。この目の前のクソみてえな男をボコボコにぶん殴ってくれないか。あの日の倍プッシュでよろしく頼むよ

菅原大吾

珍しく落ち着きがねえなあ。
まあとりあえず一服しながら話を聞かせてくれよ、な?

夏美

そういえば秋子って叫んでいたよね、
あの人の事?
私が物心ついた時からずっと仲良いなあとは思っていたんだけれど名前は初めて知った

劇場支配人

だったら何だってんだ

夏美

あの人が私のお母さん?

劇場支配人

なぜそう思う?

夏美

女の勘。血がそうだと直感的に言ったの

劇場支配人

だとしたらそれは大きな的外れだ。母さんはお前が物心つく前に交通事故で死んだ。

劇場支配人

それから17の春になるまでお前を男手一つで必死で育てた。それなのにお前は女優になりたいとか現をぬかしやがってこの町を…何が可笑しい

夏美

全く。お父さんは本当に昔から銀幕映画みたいな嘘しかつけないのよね。

夏美

お父さんが追い出したのよ。第二の原節子になる!なんてうそぶいてたわが娘が実は浮浪者の子だなんてバレたら傷がつくとでも思って。違う?

劇場支配人

違う!断じて違う。
あれはお前の知らない、昔の女の成れの果てだ!
お前には何の関係もない

夏美

お父さんは春夫で、あの人は秋子。
そして私はその間の季節を繋ぐために生まれた夏美。
たしか昔そんなドラマのワンシーンを観て大泣きした事がある。ロマンチックな発想はとても好きよ

劇場支配人

なぜわかった

夏美

この町に戻って来た時にすれ違って、それで気づいたの。
あの人は私に、いえ私があの人に似ている。
だいぶ調べたわ。
秋子さんは私を産んだ引き換えに若年性痴ほう症で呆けてしまったのね

劇場支配人

恨まないのか

夏美

何を?

劇場支配人

俺を。親の役割を果たせなかったお前の母を。映画に愛されなかったお前の人生を

続く

タイムス ライク ディーズ その12

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