冗談で言ってるんじゃないんだ。
俺は、亡くなった侯爵令嬢は知らないけど……
でもあんたは似てると思う
知らないのに?
……少なくとも顔は同じだ
あの、西園寺邸にいた「撫子」と。
そしてその「撫子」は
生前の撫子を模して作られたもの。
しかし
彼女は首を振った。
……私の心配は無用
それより、戻るのでしょう?
戻る、けど
素性のわからぬ者の助けは受けられないと仰るなら、私は一向に構いません
う……
言いたいのはそんなことではないのに。
ただ純粋に案じただけなのに。
第一、受けられないと思うのなら
最初から手など取りはしなかった。
そう
晴紘が口を開きかけた時、
あなたが救うのは「私」ではありません
彼女は晴紘の目を見て
きっぱりと言い放った。
「助けてくれると、信じています」
そう、あの日の彼女は言った。
それはやはり
彼女ではない別の「誰か」を
指しているのだろうか。
……それは……
心配しなくとも、私が「頭」に選ばれることはありません
……それでよろしくて?
信用できない。
犠牲者を選ぶのはあんたじゃない
できなくても、しなさい
……
それでいいのか?
ここでこの場を去ってしまったら
自分はまたひとり
犠牲者を見逃すことになりはしないか?
あんたは、
さあ、行ってらっしゃい
彼女は晴紘の声を遮ると
鍵を取り出した。
扉が軋む。
もう何度も通ってきた扉が
また、開いていく。
さあ