由宇と秋帆に相談してから二週間後の月曜日、ようやくおばあちゃんが目を覚ました。
由宇と秋帆に相談してから二週間後の月曜日、ようやくおばあちゃんが目を覚ました。
--------末期の胃癌だと診断された。余命、四か月。
おばあちゃんはまだ知らない。察しのいいおばあちゃんならいずれ気づくかもしれない。隠し事が通じたことは、親族誰一人として一度もない。
……どちらかといえば、伝える側の心の準備が出来ていなかった。
訊ねたいことは山積みだ。脇に置いてしまっていい問題ではない。……でもまずは、目を覚ましたおばあちゃんに、純粋に会いたかった。
三日後、面会許可が下りたその日、私は由宇とふたりでおばあちゃんのお見舞いに行くことになった。
心配、かけちゃったみたいね……
まったくです。そのまま逝ってしまうかと思いましたよ
私が何も言えないでいる代わりに、由宇が冗談めかして応えた。やっぱり、由宇はすごい。
あらあら、私はあと十年は生きる予定よ、まだまだ貴方の芸は磨きがいのあるものですからね
それは楽しみですね
そうだ舞花、あの後すぐ倒れてしまって、ほんとうにごめんね、どう、行ってくれた?
……おばあちゃんは、自分の身体の異変に気付いているのだろうか?
考えても仕方ないのに、考えてしまう。
時間屋、行きましたよ
あら、貴方も行ったの?心強いわね、それで、時間屋さんはなんと仰っていた?
了承してくれましたよ、花楓さんが目を覚ましたらまたいらしてくださいって
病院に来る前、ふたりで打ち合わせをした。
遅かれ早かれ自分の病状に気づくだろうとはいえ、時間屋についてのことを気にしないわけはない。
だから由宇も行ったことにして会話に加われば、話を契約のこと、おじいちゃんのことのほうへうまく誘導出来るのではないか、と考えたのだ。
そう、良かった。退院したら伺わないといけないわね。ふたりとも、改めて、ありがとう
ううん……。気にしないで、私、目を覚ましてくれて、すごく嬉しい
やっとのことで声を出すことができた。元はといえば私が由宇を巻き込んでしまったのに、頼りっぱなしだ。
……でも私たちに残された時間は残りすくない。
たとえ、この世に『時間』を買うことのできるお店が存在するのだとしても。
買った『時間』、それは、自分自身のものではない。
だから一秒だって、無駄にしてはいけない。
だから頼れるものはなんだって頼る。私はこの一件が始まってから、自分には次々と変化が訪れていることを自覚しているつもりだ。
けれど、まだまだ、足りないのだ。
あの『記憶』のこともある。今日までの二週間で、秋帆にも伝えた。
秋帆に話すことで、私の中でまたすこし受け入れやすくなるかもしれないよ、と由宇が言ってくれたのだ。
まだ、答えに辿り着くための道は一本だってみつかっていないけれど。
目的地がみえず、何度も何度も立ち止まり、迷い、悩むのだどしても。
立ち止まらず、一歩ずつ、私たちに--------おばあちゃんに、残された時間を、私は進んでいく。
兄貴~
なに、秋帆が電話してくるなんて珍しいな
ちょっと、頼まれてほしいんだけど
放課後、帰路をひとりで歩く。
舞花と羽邑は、目覚めたおばあちゃんの見舞いに行くと言って先に学校を出て行った。
なにも出来ないまま、歯噛みしているだけのわたしじゃない。
舞花の、おじいちゃんとの記憶の話を聴いてから、ずっと引っかかっていたのだ。それをついさっき、思い出した。
兄貴の知り合いで、『記憶屋』ってとこに伝手のある人いたよねぇ?紹介してくれない?
第九話へ、続く。