羽邑 由宇

すっかり日が暮れちゃったねぇ

二ノ宮 舞花

うん、夏も終わって、だんだん暗くなるのが早くなってきてるね

秋帆は別方向なので、由宇とふたりで帰路を歩く。

静かな夜に、私たちがぽつりぽつりと会話をする声と、足音だけが響いている。

羽邑 由宇

ところで

二ノ宮 舞花

?

羽邑 由宇

まだ、隠してることあるよね?

二ノ宮 舞花

えっ、隠してること?

……驚いてしまった。焦りは伝わるものだ。由宇は、自信ありげに続けた。

羽邑 由宇

時間屋についてのことというか、正蔵さんにまつわるなにか、とか

二ノ宮 舞花

なにも、ないよ

まだ秘密にしておくと決めたのだ。ここは、誤魔化し通すしかない。

羽邑 由宇

どうしても、言えないの……?

……まだ考えのまとまっていない、あやふやな記憶について誰かに話すという経験がないから、どうすればわからない。

きっと悩んでいることも筒抜けなのだろう。このままでは埒が明かないことも確かだ。

ゆらゆらしないと決めたばかりなのに。迷ってばかりな自分に嫌気がさす。……でも、そう、そういう自分を変える機会、なんて、綺麗事かもしれないけれど、そう考えると、覚悟も決まるというものだ。

二ノ宮 舞花

……曖昧で、すこしも確証のないものだけど、いいの?

羽邑 由宇

いいよ、舞花の話しやすいように話して

二ノ宮 舞花

うん、ありがとう

記憶を掘り起こす。話すために自分の記憶をたどっていくと、すこしずつ映像がはっきりし始める--------

二ノ宮 正蔵

舞花

二ノ宮 舞花

おじいちゃん、久しぶりだね

--------あれ?

二ノ宮 舞花

えっ、なんで、あれ!?

羽邑 由宇

舞花?なに、どうしたの!?

二ノ宮 舞花

おかしいの、おじいちゃんは、私が物心つく前に亡くなったはずなのに、おじいちゃんと話した映像がはっきり流れてきたの。なんで?私の記憶違いなの?

羽邑 由宇

落ち着いて、舞花っ

いつの間にか立ち止まっていた私たち。肩を優しく包む由宇の手のぬくもりが伝わってくる。

深呼吸。落ち着いて、夜の澄んだ空気を吸い込む。

羽邑 由宇

俺にはわからないけど、いくらでも待つから。焦らないで、ごめん、俺も急かしすぎたね

二ノ宮 舞花

ううん、由宇の所為じゃないよ、ごめん、ちょっと、でも、時間、欲しい

羽邑 由宇

うん、大丈夫だよ、安心して、もう急かしたりしないから

由宇の優しい声音は、私の心に沁み渡るようだった。

羽邑 由宇

……というか、今までの言葉、恋人みたいだね、なんか恥ずかしくなってきた

二ノ宮 舞花

そっ、そんなことは、ないんじゃないかな!?

羽邑 由宇

そっ、そうだね、だよね、うん、変なこと言っちゃった……

空気がなんだかおかしな方向へ変わったタイミングで、由宇の家が見えてきた。

羽邑 由宇

あ、じゃ、俺は、此処で

二ノ宮 舞花

今日はほんとうに、ありがとう

羽邑 由宇

あんまり自分を追い詰めないでね。とにかくまずは、花楓さんが目を覚ますのを祈ろう。溜め込んじゃ駄目だよ、なにかあったらすぐ相談して。神原も居るんだし

二ノ宮 舞花

うんっ、それじゃあ、また明日

羽邑 由宇

バイバイ

由宇を見送り、私も歩き出す。

けれどふと、立ち止まり、私は考えずにはいられなかった。

二ノ宮 舞花

……あの記憶は、なんなんだろう

自分の中に、得体のしれない記憶があるというのは恐ろしいことだ。

でも受け入れなければいけない。

でも『時間屋』のこと、おじいちゃんおばあちゃんのことを知るために--------自分を知るためにも、乗り越えなければいけない壁なのだから。

第八話へ、続く。

7.それは得体の知れない

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