シュバルツたちを見送って、空を見上げる。
茜色の空が果てしなく広がっていた。
これから、どうしよう……
静かに考える。
しばらく、考えて
そして、工房の掃除をするクリスの背中に声をかける。
シュバルツたちを見送って、空を見上げる。
茜色の空が果てしなく広がっていた。
これから、どうしよう……
静かに考える。
しばらく、考えて
そして、工房の掃除をするクリスの背中に声をかける。
クリス……この街を出ようかと思うのだが
良いんじゃないか? ここは長居しすぎたからな
夕焼けの光を浴びたクリスが柔らかな笑みを浮かべる。
少し、休みたいんだ
……今のデュークをミランダが見たら。頑張りすぎだから、休みなさいよって言うと思う。だから、お前は少し休んだ方が良い。絶対良い
……そうだな
クリスは何があったかを一切聞いて来なかった。
言わなくても、分かってしまうのだろうか。
クリスからミランダの名前を聞いたのは久しぶりだ。
出て行くってことは片付けないとだな
そうだな……
グルリと見回す、狭い部屋だが物がずいぶん増えた気がする。
………ナイフ、研いでやろうか?
それぐらい自分でやるさ
オレは懐からナイフを取り出す。
そのナイフがラシェルちゃんのところに導いてくれたのか?
まぁな
先代幻獣王様の御守り……幻獣王様もお前のこと見守ってくれていたんだな
……ああ
夕日にナイフをかざす。
オレンジ色の光の向こうに、穏やかに笑う祖父と、老魔法使いの姿が見えた……ような気がした。静かに、時間が過ぎていく。
……あ、良いこと考えた
しばらくの静寂の後、クリスが屈託のない笑顔を見せて、これからのことについて話し始めた。
でんしゃ~!!
はしゃぐな
興奮して車窓に貼りついたラシェルを剥がす。
ラシェルは自分が人間の姿に化けていることを忘れているのだろうか。
本来の姿は猫。
今日はアークに魔法をかけてもらって人間の姿をしている。
人間の子供でも窓に顔と手を押し付けて外を見るものは珍しいだろう。見世物になるつもりはないので、引き戻して隣の座席に座らせる。
一人分の運賃を支払ったのだから、座席に座って貰わないと困る。
クリスも良い奴だね
そうだな
工房の片づけをクリスに任せて、オレとラシェルは一足先に旅立つこととなった。
向かう先は精霊の森。
人間と関わるのは少し疲れた。
静かな場所に行きたい。
クリスと相談した結果そこに決まったのだ。
どうせなら、クリスは来なくていいのに
そう言うなよ。もう少し、仲良くしてくれると有難いのだが
そればかりは、デュークのお願いでも聞けないよ
残念だ。それで、ラシェル。良かったのか
ん?
アークやノアの近くにいれば、いつでも魔法で人間の姿になれるのに。その姿、気に入っていたのだろ?
私ね、デュークの膝の上が好きなの
おい
ドスンと膝の上に座ってくる。
ここに座れるのは、私だけの特権なの
“デュークの背中は、私だけの特等席なのよ”
ふと、ミランダの言葉が思い出された。
目を閉ざすと、見える。
彼女がオレの背中に寄りかかってくる。
あの時の重みと同じ重みが背中に感じた。
ずっと、背中に感じた重み。
あれは、罪の重さなんかじゃなかった。
(ミランダは、ずっとオレの側にいたんだな)
“そうだよ、デューク。私はここにいるから”
彼女の声が頭の中に響く。
(ずっと罪の重みかと思っていたよ)
“私も一緒に背負っているよって言いたくてここに居たのに……勘違いして困った子ね”
(忘れていた。オレにとってこの重みは心地の良い安らぎだった)
“じゃあ、もう大丈夫だね。”
“この重みを感じたら、
安心してね”
目を開くと、不思議そうに見上げるラシェルと目が合う。
とりあえず、その身体を座席に追いやる。
ひどい
座席代払っているんだ。何度も言わせるな
ドンドン
窓ガラスを叩く音が聞こえたので、窓を見る。
クリスが何やら必死の形相で窓を叩いていた。
あれ、クリスだ
!!!!!
あいつ、何を口パクしているんだ
何で焦っているの、変な顔
大笑いするラシェルだが、何だかクリスの様子がおかしい。
耳を凝らしてみると……
列車、そっちじゃないよ!! その列車は、幽霊列車だよ!!
え?
全身から血の気が引くのを感じた。
そういえば、この列車……乗客がいない。
辺りをキョロキョロと見たオレを不審そうにラシェルが見る。
どうしたの
乗る列車を間違えたらしい
ええ?
ラシェルが手に口を当てて驚く。
とにかく、外に出なければ。
オレたちは慌てて立ち上がる。
ポーーーーー
こ、この音は……
窓の外を見ると頭を抱えたクリスの姿が遠ざかっていく
あれ?
遠ざかってる。
ああああああああ
う、動いているよ!
ラシェルが車窓に飛びついた。
………あ、ああ
すごい、走っている
感嘆の声を上げるラシェルに苦笑を返してから、オレは彼女の隣に座った。
そして、目を閉じた。
あれ? デューク、寝るの?
………ああ、寝る
じゃ、お膝に座っても良い
……勝手にしろ
運賃がどうとか、関係なくなってしまった。
うん、勝手にする
膝にコツンと重みがかかった。
そして、背中にも微かな重みを感じる。
大丈夫。
ラシェルがいるから一人ではない。
背中にはミランダが見守ってくれているから怖くはない。
安心して眠れそうだ。