食べてさえいれば、生きていられた。

 食べ物があって、雨風され凌ぐことが出来れば、生きていられる。

 私は、屋敷に入って食べ物を持ち出す。

 一匹だから少しだけの量で充分だ。

 屋敷の人間たちは私には気づかない。

 だから、私は堂々と入って、こっそり食べ物を持ち出していた。


 勝手口に鍵がかかっていないことを私は知っていた。

 寝る場所は馬小屋の隅っこで十分

 ある日、いつものように食料を探しに家の中に入ると赤い何かが散乱していた。


 前に住んでいたお屋敷でも見たことがある。
 美味しくなかったと思う。




 試しに舐めてみたけれど、
 やっぱり、美味しくなかった。



 食べ物はなかった。


 だから、もうこの家にいても食べ物がないのだと判断した。

 また、次の家を探さないと……
 私は夜の街に駆け出していた

 その日は月が隠れていた。




 私の目の前に、不思議な人が歩いている。 









 気になって、その背中を追いかけていた。
 その人が、突然振り返ったので驚いて飛び跳ねる。

……っ

 その人は男の人だった。
 不審そうに目を細めて私を見た。

!!

 初めてのことだったので、興奮していた。

 仔猫の私の存在を気にする人なんて今までいなかったのだから。

 色々な家に住みついていたけれど、どの家でも誰にも気づかれなかった。


 そのことが嬉しくて、同時に寂しくも感じていた。
 もしかすると、私の存在なんて誰も気にしないのではないだろうか。


 そう感じていた矢先の出来事だったので、激しく興奮している。

アナタはどこに行くの?

どこでもない、どこかだ

 面倒臭そうに返答された。

 返事があった。

 ただ、それだけなのに嬉しい

んー……………それって、どこ?

ここじゃない

あっち? こっち? どっち?

 もう、何を言っているのか分からない。
 私は、もっとこの人とお話がしたかった。
 だから、何でも良いから質問をしたかった。

………

 男の人は表情を険しくする。
 少ししつこかっただろうか。
 不安になると、彼は頭を搔きながら……

ああ、西だな

 答えてくれた。
 だから、私は……

西に行く? じゃあ、私も行く

何でそうなるんだよ

 私も、何でそう言っているのか分からない。

私、これから何処に行けば良いのかわからなかったの

好きなところに行けば良いだろ

だから、アナタの行くところに!

 そう決めた。
 私は決めたことを曲げることをしない。
 だから、これは決定事項なのだ。

……わかったよ。仕方ないな

ありがと。でも、アナタがダメだって言ってついていくつもりだったよ

そうだと思った。勝手について来られても困るからな。行くぞ

 フッと穏やかな笑みが見えた。本当に一瞬だけど、微笑みを向けて貰えたのは初めてだった気がする。

エヘへ……ところで、アナタの名前は何ていうの?

 ゆっくりと、月が姿を現した。

 キラキラとした月の光が青年を照らす。

 銀色の髪と瞳を持つ青年は、面倒そうに笑みを浮かべた

オレの名は………デュークだよ

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