帰り道、江岸と一緒にいた。


水澤と春河は先に帰宅した。

江岸 梨奈

工藤くん、昼食どうだった?

江岸が顔をのぞき込んでくる。


俺はあくまで淡々と答える。

工藤 柊作

まぁ…楽しかった


隣の少女は嬉しくてガッツポーズをとっている。

江岸 梨奈

ねぇ、本当に浦部先生に何したの?


更に息を弾ませて聞いてくる。

工藤 柊作

別に、何もしてないって

江岸 梨奈

嘘だぁー。あの公平無私な浦部先生がずっと工藤くんのそばにいるもん。授業の時も工藤くん見てニヤニヤしてたし

工藤 柊作

俺が珍しいからじゃないのか

江岸 梨奈

えー

呆れ半分に言い捨てる。
江岸はまだ少し不満そうだ。




だが、次の瞬間には笑顔に戻る。

江岸 梨奈

夜の二次会楽しみだね。工藤くん、綾瀬さんの家に行ったことないんだよね。また迎えに来て……

工藤 柊作

行かない


つい強い声が出てしまった。
遮られた江岸の顔が固まる。

江岸 梨奈

え……?

どうしても江岸の顔を見れなかった。


うつむきながら押し殺すように叫びだす。

工藤 柊作

俺は…前に言ったはずだぞ。俺は誰とも仲良くなるつもりなんてない。例え江岸は例外だとしても、岸ノ巻の人と親しくなる気はない

江岸 梨奈

…………っ

江岸がショックを受けているのが分かった。


だが、もう止められなかった。
汚い言葉が次々と吐き出される。

工藤 柊作

本当なら、俺は誰とも関わらずに一人で静かに死んでいくつもりだったんだ。なのに、お前達が俺と関わるから……。
わざわざ市の人呼んで二次会する意味が分からない。これ以上誰とも関係を持ちたくない!

瞬間の沈黙。






耐えきれずに顔をあげると、やっぱり江岸の目には涙が溜まっていた。


拳をつくってわなわな震わせている。

工藤 柊作

…………ごめん


やりきれなくなり、顔を背けたまま、再び歩き出した。

工藤 柊作

しばらく……一人にして


その時の江岸の表情は分からない。
だが、嗚咽まじりの彼女の呟きがかろうじて聞こえてきた。

江岸 梨奈

……バカっ


江岸が俺の横を走っていった。
すれちがう間際、雫が俺の頬に当たった。

歩きながら、俺はこれでいいんだと自分に言い聞かせた。



ここに来る前の俺ならそうしてた。
誰とも関わらずに生きていくって決めたじゃないか。
その時のその気持ちに嘘はない。









だったらなんで……

工藤 柊作

なんで…視界がぼやけるんだよ……!

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