煙を吸い過ぎて意識がどうにかなりそうだ。
視界が鮮明になって、そこが外なのだと気づくと……自警団が駆け寄って来た。
………
煙を吸い過ぎて意識がどうにかなりそうだ。
視界が鮮明になって、そこが外なのだと気づくと……自警団が駆け寄って来た。
大丈夫か!
すぐに医者を! まだ助かる!
第6章
目覚め
ソルが目覚めたのは殺風景な病室だった。
視線を上げると仏頂面の義兄と目が合った。
目が覚めたか
ああ……あいつは?
目が覚めた瞬間に漂うのは重苦しい空気。
それでも気になったのは、あいつのことだった。
お前が連れて来てくれたお蔭で……無事といえば、無事だよ。お前と違って無傷だったしな
そうか………怒っているよな。あいつをあんな目に合わせたんだ
ああ怒っている。正確には両方にな……
え?
二人とも自分の命を大事にしていない………そうだろ?
まぁな。このまま目覚めなくても良いって思っていた……よ
ばーか、何言ってんだ。バカ
あいつも同じだろうな。お前と違って、意図的にそれが出来るから厄介だな
魔法使いって厄介だな。それじゃあ、このまま目を覚まさない可能性もあるよな
だろうな……引き篭もりだからな。今も自分の心の中に引き篭もっているのだろ。魔法でな
俺はどうすればいい?
………
視線をナイトに向ける。
ナイトは右手の親指を顎に当てて思考する。
目を閉じて静かに呼吸。考え事をするときの彼の癖だった
………
お前は監視されるだろうな。あの場で自分があの二人を殺害して火を放った……なんて宣言するから
立派な咎人だ
それで、どうして俺を突き出さない
オレはお前が犯人だとは思えないんだよ
俺じゃないとしたら……
誰を疑っているのだろうか、目線の先でナイトが苦悶の表情を浮かべていた。
………
待てよ………殺したのは俺だ……あいつじゃない。お前が………お前がそんなことを考えるなよ
まさか、ナイトが妹を疑うとは思わなかった。
確かに彼女には動機はあった。
それでも、疑ってはいけない。
ソルの興奮を落ち着かせるように、ナイトが両肩を掴む。
落ち着けよ……オレだって考えたくはないさ。だけど、血の付いたナイフが落ちていた。あれは、あの子のものだ。護身用の為にオレが与えたものだ
それが、凶器だったのか?
遺体の状況が悲惨だった。断定はできないそうだが…
凶器と見なされている
あいつ、いつもナイフを持ち歩いていたよな。地下書庫を出る時は必ず持っていた……
まぁ、そのことはオレたち兄妹しか知らないことだ……。
あのナイフがあの子のものだってことは証言していない。
でも指紋が……
ナイフの元の持ち主は爺様だ。魔法使いのナイフだから、指紋なんて残らないさ
………マジか……よ。魔法使いって怖いなぁ……
爺様の形見だし、大事な物だから返しては貰うけどな
とはいえ……ナイフだなんて……物騒なものを持たせていたのはどうしてだ? 危ないからって料理で包丁も持たせないお前が……
護身用の武器を女の子に持たせるのは当然だろ
そうだけど……
(野菜を刻む包丁は危ないからって持たせない。果物ナイフだって触らせない。だけど相手を攻撃するナイフは必要だからと持たせている。うちの長男はおかしいな)
とにかく。昨日、何があったのか………本当のことを知っているのはあの子だと思う
俺が犯人なんだ、それで良いだろ………っ
……って
ふいに、ナイトの影が覆いかぶさる。
そう気づいたときには、胸倉を掴まれていた。今までに見たことのないような鋭い視線を刺してくる。
やばい、殺される。
お前の証言だけで、犯人だと断言するほど自警団は馬鹿じゃない! それに、あの子を悲しませる。そんなのは赦さない
……だ、だけど……
だけど、じゃない。お前はあの二人を殺したと言いながら、その時の状況を言えないだろう。どういう状況で殺したんだ? 言ってみろ?
……え、えっと………
ソルは義兄の顔をまともに見られなかった。
彼の言う通り、あの二人を殺した時のことは何も話せない。
ほら、言えない。どうして言えないんだ?
そ、それは………
だいたい、お前は……あのナイフについて知らなかった。自警団に問われたとき、どうするつもりだったんだ?
ううぅ
ソルは街で一番の問題児として恐れられて来た。
毎日のように喧嘩をして、周囲に怖がられて、そんなソルが今は圧倒されている。