え、なんで!?


目を疑った。

木下女史は
あの日
殺されたのではなかったか?





だが、それなら


目の前にいるのは?

























袖の下で傷が疼く。
あの夜のことは夢ではない。

でも

それでは……








なに? 幽霊でも見たような顔して

こんなところにまで来て調べもの?
相変わらず真面目ね、大庭くんは

き、の……



幽霊を見たような顔、というのは
まさしく今のような顔なのかもしれない。

俺の中では
木下女史は既に故人なんだから。




晴紘は、
おそるおそる視線を下に移動する。

ちゃんと足もある。









……どこ見てんのよ

あ、いや、ええっと

で……華族年鑑? 変なもの読んでるのね



彼女は身を乗り出すと

晴紘と、ぶ厚い書籍と、
積み上げられたゴシップ誌を見比べた。

ははーん


ニヤリと笑う。

今更ながらに家主様の素性を調べたくなった、とか?

え?



晴紘はまじまじと彼女を見上げた。
 
それはまさしく
今しがた見つけた、





西園寺家と灯里を繋ぐ記事。


あの歳で羽振りがいいんだもの。気になるわよねぇ

そこに下宿する大庭くんってもしかしてすごいコネがある? ってみんなして噂してたの、知らないでしょ










西園寺侯爵の妻、
つまり撫子の母が


森園灯里の母でもあったと――。


















聞いた話なんだけどね







木下女史曰く








灯里の母が、

灯里を産んだのちに
なんらかの縁で西園寺侯爵と再婚し、
そこで撫子を産んだ。

と、いうことらしい。





幼い灯里から母を奪ってしまったという
自責の念からだろうか。

西園寺侯爵は森園親子を気にかけ、

父親が亡くなった後には
一時期、
灯里を引き取っていたことも
あるという。

そればかりでなく、

灯里が駆け出しの頃から仕事を任せたり、
他の華族に紹介したりもしたらしい。










……って

ま、話半分に聞いておいたほうがいいかもだけど。これも出所は三流雑誌らしいし

へえ……



幼くして「亡くした」母、ではなく
「失くした」ということだったのか。



他人の家の事情を
突っ込んで聞くのも……と
配慮した結果、

微妙に誤解していたらしい。








そして、























『華族様や会社のお偉方のような、
金が余りまくっている連中の
依頼を受けて』








同窓会の席で聞いた噂。


あれは、
西園寺侯爵のことだったのか――。








pagetop