夜が明けて、
晴紘は図書館へ向かった。


華族年鑑をはじめとする
西園寺侯爵家に関する資料に
片端から目を通していく。








交遊のあった人々から
話を聞くことも考えたが
侯爵家令嬢の交遊相手は華族だろう。

いきなり出向いて行っても
話を聞かせてくれるとは思えない。







西園寺侯爵が連続殺人に関わっているかもしれません、なんて言えないしな……






さ……西園……



予想通りと言うか、
年鑑には大したことが載っていない。

個人情報だからと言うところも
あるのだろう。





だが期せずして
若くして亡くなった侯爵家令嬢は
当時、世間の関心を集めたらしい。


木下女史が毛嫌いしていた
ゴシップ系雑誌が
詳しく調べてくれていたことには
苦笑を禁じ得なかった。







こうやって見ると知らないことばっかりだ





撫子は
西園寺侯爵のひとり娘。

亡くなったのは今から十年ほど前。

……そんなに昔のことでもないんだな





人の歴史としては
十年は最近のことかもしれない。

でも自動人形なら
十年あればかなり性能も違ってくる。




例えば、本を読む動作。
それだけなら十年前の技術でもできる。

しかし
あれだけ滑らかに動くのは無理だ。







撫子はここ数ヵ月
頻繁に戻って来ていたから

修理以上の改良を加えているのは
間違いない。





















他には……特に目を惹く箇所も無し、か





可も不可もない良家の令嬢。



それはつまり

次の標的になる娘を
見定めるポイントがない。

と言うことで……。


十年も前のことだしな……


























十年前、晴紘はまだ学生だった。

確かあの頃既に灯里は
人形技師として独り立ちしていて、

あの頃に撫子は亡くなってたってことか




灯里が人形技師になったのは
亡くなった父親の跡を継いでから。

と、考えると

人形の撫子は
オリジナルの撫子が生きているうちに
作られた、ということになる。







あの人形が一番詳しかったりして


そう考えれば

「撫子を喋らせる」という話の実現を
願わなくもない。


……最低だ

俺がやっていることは

その実現を阻止すること
かもしれないのに。







その後も
資料をひもとくこと数十分、

これ、は






あれ? 大庭くんじゃない?

雑誌のとある1頁に
目が留まったその時、

頭上から声が降ってきた。

え?

晴紘が顔を上げると



























































































久しぶり!

き、のした……さん!?






木下女史が立っていた。









pagetop