『なに言ってるの?』





















きの、下……さん?


声が聞こえたような気がした。
自分を叱責する声が。




見回したところで
誰もいないのだけれども。










……

晴紘は起き上がった。



どうせ横になっていたって
眠れるわけじゃない。















あるはずなんだ。まだ何か手がかりが……












あとは頭と足が揃えば人間ひとり出来上がるね


足は揃った。
残るパーツは頭。






しかし。

頭……か



この事件が
撫子のために起きたものなら
「頭部」は必要としていないかもしれない。


変えてしまえば
それは「撫子」ではなくなる。

西園寺侯爵にとっての撫子は
あの顔のはずだから。



それじゃ、もう犯行は行われないのか?

手がかりは、もう、ないのか














そうだろうか。






自動人形は
造形としては生身の人間を超える。

だが、

所詮、小奇麗に着飾った人形でしかない。
























西園寺の屋敷で撫子は本を読んでいた。

読む、ふりだけ。



しかし
もし本当に本を理解し、
考える力を持つことができたとしたら
どうだろう。










むしろ、侯爵は……

話しかければ返事を返す。

作り物の言葉ではなく、
その時々に応じた言葉を。






妻と娘に先立たれた侯爵なら、
もしそんなことが可能なら、

侯爵は、


きっとそれを望む。



























『ピアノを嗜む娘の手は
やはり上手に弾くのだろうか』














「撫子」は
亡くなった侯爵の娘を模して
作られた自動人形。

できる動作が増え
より人間に近い動きを見せるようになれば


より似せたい、という欲求は
増すに決まっている。












だから







顔じゃない




人形を人間に変えるには



























「頭」が必要だ。






















だが
これはまだ憶測の域を出ない。


この事件が
撫子のパーツを集めるための
ものだという証拠がない。

良い足が手に入ったからね

侯爵の言う「良い足」が、
木下女史のものを指していたという
証拠もない。




















けれど
証拠が無いことが

「事件と全く関係ない証拠」

には
ならないはず。




















あのね。捜査なんてどれも無駄手間の中から真実を見つけ出すものでしょ!?



そうだよな。

無駄かもしれなくても
やらなきゃ始まらない。
































だとしたら?
























より撫子に似せるための「頭」。

 それは頭の回転ではなく
性格や考え方といった日常の言動を
「生前の撫子」に
似せるために必要なパーツ。




撫子に似た性格の娘、

……でも俺は撫子の性格なんか知らない

本人が亡くなっている今、
それを知るのは侯爵と
生前に交遊があったであろう人々。



しかし、侯爵には聞けない。

「撫子」を作った灯里の父は
知っているかもしれないが、

既に他界している。



どうしたら……










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