それはこちらも結構。
ところで失礼ですがもしかしてその女性は元芸能人の方ではないですか?昔にワイドショーで見たような、見ていないような

織原経華

話しかけないで下さい!
どうしてこんなに大人は判ってくれないんですか!バカ!

と言ってあっかんべをする以外には経華が大人の正論や提案に反論出来る術は無く、
ただその場は唇を噛み締めて夏美をおぶり去る事しかできなかった。

夏美

ごめんなさい。迷惑かけて

織原経華

いえ、これもアルバイトの務めですから!
それにいつも結構重いもの運ばされているので問題なしです!
最近二の腕も結構カチカチになってきたんですよ!触ってみてください!

夏美

本当だ。とっても頼もしいわ

小暮と連絡する事もできず、
病院が何処にあるのかも知らない経華が頼ったのは森施術院であった。

時代屋の人力車も顔負けの馬力で吾妻橋を渡り、
向島方面へと駆けて行った。

夏美

織原さん、飛脚みたいね。とっても粋よ

織原経華

合点承知の助!!

夏美は少し笑ってそう汗だくの経華の背中に呟き、
目を閉じた。

一方、映画館では10半荘目に突入した小暮と松田の二人麻雀であった。

劇場支配人

なあハンサム。
近頃よく感じるんだが結局人間の一番の幸せってのは大家族に囲まれて往生することだ。そう思わないか?

小暮忍

どうでしょう。自分は子供が嫌いなので

劇場支配人

それは他人の子だからだよ。そしてお前さん自身がまだ若いからさ。

劇場支配人

子供というのは冷め切った愛を繋ぎとめてくれる宝石だ。
自分が呆け始めた頃にそれがさらに孫という新しい宝石を与えてくれる。
そして最後はそんな光にまみれて死んでいく。

劇場支配人

今更ながら憧れるよ。才能や映画なんてのは本当に些細な余興で、特に必要なかったのだなと思うよ

小暮忍

美談だとは思います。でも若いと言われても、自分はもういい歳をした中年です。ここまで来たら独りで死ぬ覚悟は出来ています

劇場支配人

わからん奴だな。そういう事を言ってるんじゃない。
男はアレが出来なくなった瞬間に人生が終わるんだ。

劇場支配人

映画や博打なんて余生に取っておけよ。
適当に昼間は退屈な仕事をやって、家に帰ったらあの子を毎晩抱きまくれよ

小暮忍

そんなの時代錯誤の発想ですよ。どれにしたってもう自分はきっと死ぬまでこんなですよ。
リーチ

劇場支配人

ぐぬぬ…

小暮忍

ツモ。純チャン三色平和で倍満です

劇場支配人

ハコだよ。参った。綺麗な手でアガッたな

小暮忍

はい。我ながら二麻とはいえ本当に美しい手役だと思います

劇場支配人

まあ、お前のあの子の巨乳と美肌に比べたらちょっと劣るんじゃないのか?

小暮忍

…ではお約束の施術をするので家に帰って施術道具を持ってきますね。今日の夜頃にでも

と言いかけて小暮は経華の貴重品をごっそり自分が持っている事に気づいて頭を抱えた。

劇場支配人

どうしたハンサム?

小暮忍

いえ、ちょっと冗談にしづらい面倒な事を思い出しましてね

 

続く

タイムス ライク ディーズ その7

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