それは、とある街に立ち寄ったときのことだった。

サク

………………………

窓の外を眺めていたサクの顔が、どこか羨ましそうな、申し訳ないような、寂しいような、そんな変な表情に染まっていたことに気付き、テオが声をかける。

テオ

どうかしたのか、サク?
なんだか浮かない顔をしているけど……?

サク

なんでもない……

テオ

こっちも見ずに何でもないって……
なんかありますって言ってるようなものだぞ……

ティー

マスター……
女性の気持ちをもう少し考えられるようにならないと駄目ですよ?

心の声にティーからツッコミが入り、「いつからエスパー機能を搭載した」とツッコミ返してから、サクにつられるように窓の外に視線を移す。

夕方には少し早い昼下がりの往来を、たくさんの人が歩いている様子が見える。
ありていに言ってしまえば、どこにでもある光景だ。

これの一体何が……?
そんな疑問を感じながら、サクの視線を追いかけると、そこには小さな子供の一団があった。

どうやら学校の帰りなのだろう、お揃いの制服を着た子供たちが、通りをはしゃぎながら走っていく様子が見て取れた。

テオ

あの子たちがどうかしたのか?

サク

どうもしない……
なんでもない……

テオの言葉に、ただひたすら首を振って「なんでもない」と繰り返すサク。
しかし、その視線はずっと道行く子供たちを追いかけていて、明らかに「なんでもない」と言うわけではない。

しかし、これ以上サクに訊いてみても、同じ答えしか返ってこないことは、ここに至るまでの旅の中で十分理解しているテオは、小さく息をつくと、子供たちとサクを交互に見つめて考え始めた。

テオ

まったく……
サクはあれで意外なほど頑固だからな……

テオ

さて……、あの子供たちが気になるようだけど……
あの子たちに特別な何かがあるのか……?
いや……そうは見えない……
あの子たちはどう見ても普通の小学生だし……
…………小学生……?

子供たちを観察していて僅かに引っかかったことを逃がさないように、テオは思考を加速させる。

テオ

そういえば、サクはあの村で孤児院にずっといて学校に通ったことがなかったんだっけ……
ずっと俺に着いてきていたから同年代の友達もいなかったし……
……ということはもしかして……?

一つの可能性にたどり着いたテオが、サクに目線を合わせてから、ゆっくりと問いかける。

テオ

学校……行ってみたいか?

どうやら正解だったらしく、一瞬サクの細い肩がびくり、と揺れる。

サク

でも……テオさん……たびが……

テオ

別に大丈夫だって
俺の旅は急ぐものじゃないし……
そもそも当てもないんだから、どこかに長居しようと問題はない
というか、前にも言ったよな?
もっと俺たちにわがままを言っていいんだ

ティー

私もマスターと同じです
サク様、いつでもあなたがやりたいことを口にしてくださっていいんです
私はマスターとサク様を全力でサポートするのが役目ですので

テオとティー。二人に言われて、しばらく何かを考えるように口を閉ざすサク。
恐らく、己の中でテオのことと自分の欲求とを天秤にかけているのだろう。

そうしてサクが出した答えに、テオとティーは微笑んで頷くのだった。

サク

…………じゃあ……がっこーいってみたい……

テオ

そうか!
じゃあ早速手続きしてこなくちゃな!

ティー

はい!
ちなみにこの街の学校は、ここから南西へ1kmほど行ったところ……街の中心街に程近いところにあります!
近くには文房具店などもありますので、必要なものを買い揃えながらいくことをお薦めします!

テオ

よし、それじゃ早速いくか!

サク

うん!

そして二人と一体は、早速街の中心街へと向かうのだった。

数日後。

テオ

サク、忘れ物はないか?

サク

うん、だいじょうぶ!
きのうもティーおねーちゃんとたしかめた!

ティー

はい!
私が全責任を持って、中身を全て確かめさせていただきました

テオ

そうか。それなら大丈夫だな!
一応、サクの携帯にもティーをインストールしておいたから、何かあったら、ティー。頼んだぞ?

ティー

お任せください、マスター

テオ

よし、それじゃいってらっしゃい

サク

いってきます!

ティー

行ってまいります、マスター

真新しい制服に身を包み、意気揚々と学校へ向かっていくサクを見送りながら、テオの頭には一つの考えが浮かんでいた。

それから数年後。

テオ

サク!
そろそろ時間じゃないのか!?

ちらりと時計を見上げたテオが、指し示す時刻を確認してから、二階の少女に声を掛ける。

その直後、どたどたと階段を下りる音がしたかと思うと、バン! と勢いよくリビングの扉を開けて、一人の少女が飛び出してきた。

サク

わわっ!?
もうこんな時間!?
それじゃ師匠!
行って来ます!
行くよ、ティーおねーちゃん!

ティー

はい、サク様
それではマスター……
行って来ます

携帯を引っつかんで玄関から飛び出していく、すっかり成長して大人らしくなったサクの姿を見送って、テオは小さくため息をついた。

テオ

まったく……
サクも今日からハイスクール生なんだから、もう少し落ち着けないものか……
昔の大人しかったころが懐かしいよ……

自分以外誰もいなくなった家でぼやき、テオは自分の仕事をはじめるのだった。

あとがき

どうも作者のgachamukです。
放浪の錬金術師を読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっと強引かもしれませんが、これにて本作品は完結となります。
最後までお付き合いありがとうございました。
なお、現在、「小説家になろう」にて別作品を公開しています。
よろしければそちらも読んでみてください。

それでは。

最終話 旅の終わり

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