高い場所から眼下の街並みを見下ろして、サクが感嘆の声を漏らす。
ふわぁ……
高い場所から眼下の街並みを見下ろして、サクが感嘆の声を漏らす。
凄いだろ?
うん!
ひとがいっぱい!
へんなものたくさん!
おもしろい!!
以前立ち寄った村のフェスタ以降、それまでの堅さが少しずつ取れてきたサクが大きく頷いて再び街を見下ろす。
そこに広がる光景は、サクがこれまで立ち寄ってきた村や街とは大きく異なるものだった。
背中に背負ったプロペラで空を飛ぶ人が目の前を通り過ぎ、傍らに犬のロボットを連れた女性がゆっくりと通り過ぎる。
かと思えば、突然広場で爆発が起こり、けれど誰もそれを気に留めることなく歩いていく。
眼前に聳える街の中心の巨大なビルには、ひっきりなしに人が出入りし、街に存在する建物は、大抵が変な形をしている。
サク様
ここが錬金術師の街です
ここに住む住民のほとんどが錬金術師であり、世界に散らばる錬金術師たちにとっての聖地でもあります
せーち?
はい
ここは錬金術が生まれたとされる街で、別名「始まりの街」とも呼ばれています
いわば、錬金術の総本山とでも言うべき場所なのです
それだけじゃなくて、ここは世界中全ての錬金術師を登録・管理する場所だ
だから俺たち錬金術師は、一度はこの街を必ず訪れる
じゃあテオさんもここにきたことあるの?
ああ、俺が師匠に弟子入りして間もないころにな……
マスター……
それは私も初耳です
それはそうだ
何せここにきたのは、お前を作り上げるよりも前の話だからな
そうだったんですね……
私はまた、てっきり置いていかれたものかと……
テオさん……
ティーおねーちゃんをなかまはずれ?
よーし、サク……
遠慮が取れてきて良いことだけど、ちょっと話そうか?
最初のころに比べて、かなり遠慮が取れてボケるサクに軽くツッコミを入れてから、「さてと」と話題を変える。
とりあえず俺は本部に顔を出してくるけど……
どうする? と聞くまでもなく、サクがテオの服を掴んだ。
いっしょにいく
ふんす、とばかりに鼻息を荒くするサクに、テオは苦笑気味にティーと顔を見合わせた後、少女の小さな手を握って歩き始めた。
お~……
へんなものいっぱい……
中心街へ向かうにつれて、どんどんと変なものが増えていくその様子に、サクは興奮したように辺りを見回し、目に付くものをテオに解説させていた。
テオさん……
このおおきいちずはなに?
これは今俺たちがいる場所から目的の場所までの道を教えてくれる地図だ
ためしに、このボタンを押してみな?
錬金術師協会本部と書かれたボタンをサクが押し込むと、現在位置から真っ直ぐに光が伸びていき、中央の巨大なタワーまでの道を示す。
お~……
光が伸びていく様がいたく気に入ったのか、サクは手当たり次第にボタンをしては、様々な方向に光を走らせ、きゃっきゃと喜んだかと思うと、今度はすぐそばにあった全自動ホットドック屋台に気を取られ、機械が料理をする様子をじっと眺める。
さっきから目に付くものすべてに興味を持つサクをつれているため、テオたちは中々本部へ着けずにいた。
しかし、こういうのも悪くないとテオは思う。
俺も昔に比べて変わったのかもな……
そんなことを考えていたときだった。
お嬢ちゃん、お嬢ちゃん!
……………………?
突然一人の男がサクへ声をかけてきた。
その手には、重そうなスーツケースを提げている。
お嬢ちゃん
このケースのここのボタンを押してみな?
…………これ?
言われたとおり、サクがなぜかケースに設置されていたボタンに手を伸ばし、押し込んだ瞬間。
機械的な音を立ててどんどんとケースが変形していき、やがて。
全ての変形を終えたそこには、なぜか巨大ロボットが出現していた。
お~……
これは私が開発した、携帯型巨大戦闘ロボット……
その名も、ストライク・エンジェル!!
ネーミングがダサいな
ダサいですね
なまえはへんだけど、ロボットはかっこいい!
ロボットの足元でドヤ顔をする男に、テオとティーから辛辣なツッコミが入り、サクが同意しながらも目を輝かせてロボットをぺたぺた触りはじめた。
すると、突然ロボット全体が震えだし、装甲が一つはがれたと思った瞬間、次々と崩れ始めた。
そして、あっという間にただのガラクタの山へと姿を変えてしまう。
あっ……
こわれた……
壊れましたね
あっれ~……
おかしいな……
やっぱ変形のときに接続が悪かったか?
たはは、と誤魔化すように笑って、男は散らばった部品を拾い集めると、近くのゴミ箱へ放り込んだ。
見ていてくれよ、お嬢ちゃん!
次こそは壊れなくて乗り込める奴を作るからな!
のるの、たのしみ……
わくわくした目で見上げるサクに微笑みかけ、男は去っていった。
結局あの人は何がしたかったんだ?
さぁ……
自分の研究結果をひけらかしたかったのでは?
遠くで意気揚々と歩いていく男へ、テオとティーのため息は届かなかった。
それからしばらくして、予定していた本部への用事も終わり、宿へと向かいながら、テオは傍らのサクへ訊ねる。
どうだ、この街は?
たのしいこといっぱい!
みたことないのいっぱい!
ときどきばくはつとかあっておもしろい!
またあそびにきたい!
そうか
それじゃ、またそのうち来ような?
うん!
確りと手をつなぎ、夕暮れに染まる街の中を歩くその姿は、まるで親子や歳の離れた兄弟のように見えた。