目覚める良太郎を介抱する益荒男。

益荒男

おい、良太郎! お前大丈夫なのか? っていうか本当にわざとじゃないのか、今の一連の流れ?

良太郎

うん、何かあった俺? はうあ!? そこにいらっしゃるのはまさか…のぞみのお父様じゃありませんか!?

 突然のぞみと父の方に向かってダッシュする良太郎。

良太郎

初めまして、その…のぞみの彼氏の良太郎ッス! 突然ではありますが娘さんの事は俺が命に代えて守っていきますんで、今はこんななりしてますけど普段はちゃんとして…ハイ! っつーわけで、娘さんを僕に下さい!!

 近くにあった雪だるまをのぞみの父と勘違いして挨拶していた良太郎。

益荒男

わー、良太郎! ミスチョイス! フライング! そしてミスリーディングで最悪の三拍子揃っちゃってっから!!

元気で面白い子だね。感性豊かそうだし。本当にのぞみの彼氏なの?

のぞみ

……うーん。ちょっと微妙

良太郎

……

益荒男

とりあえず、なんつーか。ご愁傷様

良太郎

なあ、益荒男

益荒男

なんだ?

良太郎

俺、ちょっと頭冷やすわ。いろいろ話進めておいて

 そう言って雪だるまの中に頭をうずめる良太郎。

大丈夫なの彼? 死んじゃわない?

益荒男

その点はご心配なく。コイツ、東京のヤンキーでの通り名が“虎鉄”って言われるくらい頑丈なんで。ところでその……のぞみについていろいろお聞きしたいんすけど……

おお、そうだったね! あまりにも展開が突飛だったからお礼を言うのを忘れていたよ。のぞみをわざわざ東京から連れてきてくれてありがとう

益荒男

あの……突っ込んだこと聞くようで申し訳ねえんすけど、どうしてのぞみとお母さんと離れて暮らしてるんですか? もしかして離婚?

ああ、それ聞いちゃう? 初対面の人に?

益荒男

あ……すいません

あはは。冗談だよ。そう、実は妻とは去年の暮れに離婚してしまってね。親権ものぞみに渡してしまったわけだが

 父にギュッとすがるのぞみ。

のぞみ

お父さんがお母さんの前で得意顔で怖い話するの辞めたらまた仲直りできると思う!
だってあんなにお母さん嫌がってたのにお父さんずっと楽しそうに話すんだもん!
のんだって寝る前にかわいい絵本のお話聞きたかったのに、お父さんたら毎晩毎晩『本当は怖いグリム童話』とか『巷説百物語』ばっかり読むからのんよくおねしょしちゃったし

良太郎

のぞみが……おねしょ……

益荒男

そこ反応するなや! お前はもうちょっと寝てろや!!

良太郎

ウガッ!

 益荒男のハードヒットなツッコミに気絶する雪だるま良太郎。

益荒男

つうか、やっぱ怖い話好きなんだ。てか、この人ならやりかねなさそうなオーラ持ってる!

たしかにその点は悪かった。でもね、のぞみ……それだけじゃないんだ。お母さんは本当はこんな寒い北海道の生活じゃなく、東京の華やかな暮らしに憧れていたんだよ。家にいてもドライブに連れえていってもずっと函館湾の向こう側の景色を眺めていたんだ

 サイレンが聞こえ始める。

そうそう、こんな風に防波堤の高台のサイレンを聞きながら長い髪をなびかせて、まぶたを伏せながら

ちょっと君たち、2、3伺いたいことがあるんだが

そうそう。遠い目をして『ちょっと話したいことがあるの』っていって切り出されたのが離婚話と

おとなしくしろ。お前たちは完全に包囲されている! 逮捕状も出ている!

そうそう、離婚届も用意したのって言って、もう決めた事だからってさ

益荒男

いや、ちょっといいすか? お父さん

ん? なんだね。せっかく人が感慨にふけっているところだったのに

益荒男

俺たち、警察に囲まれてます?

 謎の声は数人の警官たちであり、すでに良太郎たちを包囲していた。

警察官

お前たちを幼女誘拐の容疑で現行犯逮捕する!

 手錠をはめられる一向。

ああ、やっぱりそうだったのか

益荒男

何がっすか?

いやあ、今日家を出る際にテレビでやってたんだよね。東京で美少女が不良青少年たちに誘拐されてて、元嫁によく似た被害者の母親が泣きながら捜索願のインタビューとか受けてるニュース番組……すっげえ良い女だったんだよなあ

益荒男

てかそれ早く言って下さいよ! そして最後の感想呑気だなあオイ!!

〈脚本・監修〉橋本ピッツァ(敬称略)

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